本研究では、ハプト藻5種のみで報告されている脂質アルケノンに着目し、その中の1種であるTisochrysis luteaとその変異体を用い、多糖合成と脂質合成の代謝調節について調べた。まず、窒素欠乏またはリン欠乏時の細胞内炭素分配の変化を調べた。どちらの場合もTAGの合成スイッチがオンになり、窒素欠乏時にはTAG蓄積量に変化は見られなかったが、リン欠乏時はTAG蓄積量が増加し、その炭素分配率が増加する一方で多糖の炭素分配率が減少していた。この時、両条件下でTAG合成遺伝子の発現解析をしたところ、2種のDGAT1の発現量が上昇していた。一方、アルケノン蓄積量については両条件で変化は見られず、生育に依存していた。次に、エネルギー源としてどの貯蔵物を利用しているか暗条件下で調べたところ、主に多糖とTAGを分解しており、アルケノンの分解速度は遅かった。 変異体解析では、アルケノン非産生株、アルケノン低産生株とアルケノン高産生株を用いた。ゲノム比較解析から、アルケノン非産生株、アルケノン低産生株の両変異体で共通してPKSに変異が見られ、アルケノン合成への関与が示唆された。アルケノン高産生株2株では、野生株と比較して最大光合成活性が1.5倍ほど上昇していた。そこで、強光や高CO2条件で培養したところ、すべての条件でアルケノン高産生株は1.2~1.5倍のアルケノン蓄積量を示した。特に5%CO2通気では、野生株と異なりアルケノンとTAGへの炭素分配率の増加が見られ多糖の炭素分配率が減少していた。 今回、リン欠乏時に多糖からTAGへ、5%CO2通気で野生株では見られない多糖から両中性脂質への炭素フローの切り替えが見られた。さらなる解析により炭素フローを切り替える仕組みが明らかになることが期待される。また、今回初めて見つかったPKSがアルケノン合成系解明への糸口となることが期待される。
|