植民地期の一般的な民間建築は個別の建築物に関する文書文献資料が少ないため、建築年代を決定する方法がなく、デザイン史の構築の妨げになっている。そこで、この研究では、アジアの旧英領植民地の英領期に建てられた建築物を対象として、鉄骨を形状的特徴から編年し、建築物の年代を決定する方法を開発することを目的とした。 平成28年度は鉄骨・鉄製品の製造会社のカタログの収集し、旧英領地で現地調査を実施し、イギリスのドーマン・ロング社製の鉄骨とカタログから、断面形状により年代の特定が可能であること、製鉄会社の刻印から会社の存続期間等の記録と照合することで年代を特定できる可能性が明らかとなった。 平成29年度は、建設年代が分かっている建築の部材を分析した。分析対象は、バングラデシュ・ナラヤンガンジ県のパナムナガール地区の建造物群である。1887年以降に発刊されたカタログを用いて、実測した鉄骨断面の寸法とカタログに掲載された鉄骨の型番を照合することで、製造年代の範囲を特定することができた。 平成30年度はチッタゴン市における英領期の建築物の残存調査を1912年に発行された都市図を基に体系的な調査を行った。インド・コルカタ市でも1889年の地図をもとに同様の調査をし、現在の建築物のうち約30%は地図作成年以前に建築されたものであることを把握した。 以上の研究分析の結果、鉄骨等の鉄製部材の属性、製造会社の刻印などを詳しく記録することにより、一定の年代決定ができることが明らかになった。しかし、年代特定はほとんど場合上限(ある年より新しい)が決められ、下限を決定することは困難な場合が多い。測量年の分かっている地図を使った記録はこの問題を補うことが分かった。この地図法と鉄骨形状の関係について、さらに研究を進めれば、鉄骨によって年代の下限を決めることも可能になると考えられる。
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