「第二の皮膚」ともいわれる被服素材(繊維)に整肌効果をもたらすことを目的として,化学修飾の検討および効率化と,その整肌効果の検討をおこなった.その背景としては,近年の機能性衣料素材による皮膚障害や,肌に負担をかけない素材の模索などの現状から一歩踏み出して,肌の健康衛生状態の向上をもたらす素材が求められているとの考えによる. 本計画は当初,研究者らがこれまで行ってきたガンマ線照射を経た化学修飾が2段階のスキームに分けて不連続的におこなう手法であることの非効率性を改良し,第一段の反応後に試料を大気に晒すことなく連続した手順で第二段の反応に進むシステムを完成することが主目的の一つであったが,検討を重ねた結果,実験室的には設備,試薬の使用量の面から却って非効率であることを確定した.これらを踏まえて,ガンマ線照射を経た手法だけでなく,化学修飾法のみによる修飾法の検討を深めた.H30年度は整肌効果と化学修飾との関係に重点を置き,主にセルロース系繊維素材(綿,テンセル,キュプラ,レーヨン)のキトサンによる化学修飾を検討した.市販のキトサンは分子量が高く,反応性に乏しいため,りん酸により低分子化して用いた.化学修飾前後の重量測定,ATR 赤外吸収スペクトル法測定,およびニンヒドリン反応によってキトサンの導入を確認し,処理試料の抗菌(制菌)性は皮膚常在菌のハロー(阻止帯)形成によって確認した.導入効率にともなって制菌性は向上した.皮膚上の効果については,処理布の風合いの劣化軽減が問題点として残された.
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