大根は世界消費量の90%を日本が占めている和食の主要な野菜のひとつであり,特に大根をおろして生で食べる食文化は日本独特のものである.大根特有の辛み成分である4-methylthio-3-butenyl isothiocyanate(MTBITC)は大根に破砕(おろす,切断)等により損傷を加えることで生成する物質である.MTBITCを経口摂取した動物は膵臓がんと食道がんの抑制効果を示し,ヒトの疫学調査では大根摂取が食道がんのリスク低下因子であることが明らかとなっている.大根おろしをヒトが摂取したときには吸収されたMTBITCは肝臓で4段階の反応を経て最終代謝物であるMTBITC-NAC(N-acetyl-S-(N-4-methylthio-3-butenyl thiocarbamoyl)cysteine)として尿中に排泄されると報告されているが,正確なMTBITCの代謝量を測定するためには,MTBITC-NACの3種類の前駆体の定量も必要である.このためMTBITC-NACの1段階前の代謝物であるS-(N-4-methyltio-3-butenyl thiocarbamoyl)cysteine(MTBITC-Cys)を得るための化学合成法を確立し,得られたMTBITC-CysとMTBITC-NACを標準品として,ヒトが大根おろしを摂取したときに得られるMTBITCの2つの代謝物の尿中への排泄量をMTBITCの吸収率の指標とし,大根おろしを摂取したときのMTBITCの吸収率の個人差と季節変動を解析した.特に,MTBITC-NACのみを標準品として,MTBITCの吸収率を求める方法の信頼性を得るための試験には重点をおき,被験者が3日間大根摂取を禁止した後の採尿において,MTBITC-CysとMTBITC-NACの排泄の有無(HPLCチャート上の夾雑ピークの重複の有無を含める)の測定データの解析もあわせて,大根を摂取したときに吸収されるMTBITCが速やかに代謝され,最終代謝産物であるMTBITC-NACとして尿中に排泄される可能性が高いことを実証した.
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