本研究は、センサー装置に風味表現のトレーニングを行ない、香りを客観的に数値化する新しいシステム開発を目的としている。この目的を達成するため、嗅覚センサーに食品の「フレーバーホイール(風味表現)」を学習させ、さらに人の嗅覚を模倣するためのアルゴリズムを新たに構築、人に近い表現を出力させることに挑戦する。本研究の推進によって、高精度に香りを表現できる嗅覚センサーが構築できれば、味覚センサーとの組み合わせで風味表現の多くをカバーし、より人にわかりやすい表現で風味の数値化ができるようになる。食品などの風味評価、嗜好の分析など、産業・学術分野に新しい知見や測定法をもたらすことを期待している。 本年度は、適切なフレーバーホイールの学習が嗅覚センサーの表現力を向上させるという仮説に基づき、嗅覚センサーによる香りの測定と学習を中心に研究を進めた。これまで、ワインの香り表現を学習させた嗅覚センサー装置を用いて、コーヒーやお茶などの香り表現を試みてきたが、適した表現ができずに解釈が難しい場合もあった。このため、本年度は、コーヒーのフレーバーホイールとして、人がコーヒーの香りを学習する際に使用するアロマキットの一つ「Le Nez du Cafe(Editions Jean Lenoir)」の36種類の香りを嗅覚センサー装置に学習させた。 この結果、昨年度まで困難であった産地別の香りの違いを見出すことが可能となり、フルーティ系の香りではアプリコット、レモンなどの香り軸で数値化できるようになった。このことから、人の官能評価の場合と同様に、嗅覚センサー装置に適したフレーバーホイールの香りを事前に学習させることで、表現力が向上することが示唆された。今後、測定サンプルを増やしていくことで、嗅覚センサーによる表現を、人の香り表現に近づけていきたいと考えている。
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