研究課題/領域番号 |
16K12712
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
八田 一 京都女子大学, 家政学部, 教授 (00309056)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アトピー性皮膚炎 / 鶏卵抗体 / λーカライギナン / 黄色ブドウ球菌 / 免疫注射 / アジュバンド / IgY |
研究実績の概要 |
アトピー性皮膚炎予防IgY抗体調製方法の検討 【目的】アトピー体質の皮膚常在細菌は表皮ブドウ球菌より黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が優勢であり、それが産生する毒素が皮膚の炎症を誘発する事が知られている。本年度の研究では、産卵鶏を特定抗原で過免疫すると、血液中に産生された特異的抗体が鶏卵の卵黄に移行する事を利用し、黄色ブドウ球菌に対する高力価IgY抗体の調製を目的とする。また、大量の産卵鶏にも免疫可能なアジュバンドとして起炎剤である増粘多糖類λカラギナンの利用を検討する。 【方法】抗原として黄色ブドウ球菌のホルマリン不活性化死菌(4.2×109/ml)を用い、産卵鶏15羽(276日齢のボリスブラウン種、各群3羽ずつ)の内、1群コントロールを除く12羽に隔週で4回の免疫注射を行った。なお、抗原液は2群生食、3群FIA、4群FCA(初回)+FIA、5群λ-カラギナンを用い調製した。初回免疫から12週までの卵黄試料について、ELISA法で特異的抗体価の変動を測定した。次いで、抗体価の上昇した卵黄からλ-カラギナン法でIgY抗体を精製した。 【結果】初回免疫後、アジュバンドを用いた抗原では、卵黄中の黄色ブドウ球菌に対する特異的抗体価(ELISA値)は上昇した。追加免疫後も抗体価は上昇し、6~8週目に最大値となった。抗体価はその後、緩やかに下降した。λ-カラギナン法によるIgY精製を行った結果、卵黄100gから純度99.8%の抗黄色ブドウ球菌IgYを461mg精製することができ、IgYの回収率は46.1%であった(最大値)。本研究の目的であった、免疫動物として産卵鶏を用い、黄色ブドウ球菌に対する高力価IgY抗体を調製すること、また大量の産卵鶏にも免疫可能なアジュバンドとしてカラギナンの利用の検討ができたと言える。なお、抗原菌体とλ-カラギナンの混合液の粘度は低く、免疫鶏から高力価抗体が産生されたことから、大量の産卵鶏への連続免疫注射が可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)産卵鶏への免疫注射 抗黄色ブドウ球菌のホルマリン死菌を抗原として、λ―カラギナンを起炎剤として混合し、産卵鶏の翼下筋へ免疫注射を行い、産卵数を落とすことなく、鶏卵卵黄中の抗黄色ブドウ球菌に対するIgY抗体価(ELISA値)を上げることができた。特に、λ―カラギナンを起炎剤として調製した抗黄色ブドウ球菌のホルマリン死菌抗原の粘性は十分低く、大量の産卵鶏にも連続免疫注射が可能な免疫注射方法であることを確認できた。 2)免疫鶏卵から脱脂卵黄粉末の調製 各群免疫鶏の血清および卵黄サンプルを用い、黄色ブドウ球菌に対する特異的抗体(IgY)活性を酵素免疫測定法で測定した結果より、抗体価の高いプール卵黄を原料として用いた。当初計画では、エタノール存在下での超臨界抽出法でIgY抗体価を失活させることなく脱脂卵黄粉末(IgY純度約5%)を調製する計画であったが、本年度は一気に高純度IgYの精製を行なった。すなはち、λーカラギナンをリポタンパク質凝集剤として用いるIgY精製法で抗黄色ブドウ球菌IgY抗体の精製を検討した結果、卵黄100gから純度99.8%の抗黄色ブドウ球菌IgYを461mg精製することができ、IgYの回収率46.1%を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
抗黄色ブドウ球菌卵黄抗体(IgY)の機能性評価 各群の脱脂卵黄粉末から鶏卵抗体IgYを精製し試料とする。その中に含まれる抗黄色ブドウ球菌IgYの抗菌活性や毒素産生抑制能を評価する。抗菌活性については、先行研究でアクネ菌や虫歯菌を用い、それらを抗原として調製した特異的IgY抗体が抗原細菌の増殖を1-2日間抑制する静菌効果や皮膚や歯面への細菌付着抑制効果を有することを確認している。本研究でも、抗黄色ブドウ球菌 IgYが抗原黄色ブドウ球菌の増殖を抑制することが充分期待できる。また、毒素産生抑制能については、黄色ブドウ球菌の外毒素TSST-1 (toxici shock syndrome toxin-1)はスーパー抗原として知られ、非特異的にT細胞を活性化し過度の炎症を起こす事が知られている。本年度の研究では、アトピー性皮膚炎予防の観点から、黄色ブドウ球菌の外毒素TSST-1の産生抑制効果についても評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は申請時の予算から107万円の減額で採択されたので、購入を計画していた設備備品の変更と出張旅費と実験補助費用を見直し、また超臨界抽出脱脂の委託施策を取りやめて予算内で対応している。本年度の予算消費はそのほとんどが物品費であり、消耗品や試薬などが見積額より安く購入することができたので、予算が14,082円ほど余った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費として使用する。
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