グラム陰性菌細胞壁成分のlipopolysaccharide (LPS) は、O抗原およびコア多糖と呼ばれる糖鎖と、リピドAと呼ばれる脂質から成る分子量5000~8000程度のリポ多糖であり、パターン認識受容体(PAMPs)を介した免疫系の過剰な活性化による致死性のショックを誘導する内毒素(エンドトキシン)である。リピドA は、LPSのエンドトキシン活性を担う最小単位構造であり、リン酸基が結合したグルコサミン2分子に脂肪酸が複数結合した複雑な化学構造をとる。菌種や生育条件(培養温度、pHなど)に依存したリピドA構造の違い(リン酸基の有無、結合しているアシル基炭素鎖の数、長さなど)はリピドA活性に強く影響しており、一般的に、リン酸基が1つのものや脂肪酸部分が小さく円錐状の立体構造を取らないものは無毒あるいは弱毒性である。このような1リン酸化型のリピドAアナログは、子宮頸がんワクチンのアジュバントとして使用されており、さらに抗アルツハイマー病効果や抗インフルエンザ効果などの薬理作用(免疫賦活活性)を示すことは非常に興味深い。 一方、植物(シロイヌナズナ)ゲノム上に大腸菌リピドA生合成遺伝子のオーソログが最近同定された。しかし、植物におけるリピドA生合成経路の最終代謝産物に関しては未だ分析化学的に検出・同定されたという報告は無く、その構造、組織分布、生成量、さらに植物個体における生理的機能については全く不明である。 本研究では食用アブラナ科植物からリピドA様分子を新規に創出・構造解析し、動物個体に対する植物由来リピドA様分子の功罪活性(免疫賦活活性とエンドトキシン活性)を評価することによって、機能性食品因子による自然免疫制御の新規分子基盤確立を目指す。
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