1.胎児期低栄養によって発現変動する末梢血白血球における血糖上昇履歴マーカーの探索:妊娠ラットの食事摂取量を妊娠10日目から出産時まで対照群の50%となるように制限することにより、胎児期後期に低栄養環境に曝されたWistar系および非肥満型2型糖尿病モデル(GK)の仔ラットに、5週齢の時点でグルコースを経口負荷し、末梢血白血球において3時間後に発現が増大した炎症関連遺伝子について、発現量の増大幅が、胎児期低栄養に曝露したGKラットにおいて特に顕著に見られる遺伝子を探索した。その結果、IL-1β、S100a8、S100a9、S100a11の遺伝子が典型的な発現変動を示しており、血糖上昇の履歴を示す感度の良いマーカー候補遺伝子である可能性が示唆された。 2.胎児期低栄養による出生後の発達に伴う脂肪組織における遺伝子発現に及ぼす影響:胎児期後期に低栄養環境に曝された仔ラットの腸間膜脂肪組織における発生・分化関連遺伝子の発現を、Wistar系ラットを用いて13日齢から42日齢まで調べたところ、脂肪細胞の分化に関与する転写因子KLF5、KLF15、C/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδの発現が、哺乳-離乳移行期から、対照群と比較して著しく低値を示した。胎児期に栄養制限を受けたGKラットでは、成熟期において、脂肪細胞の分化に関与する転写因子に加えて、脂肪酸合成関連遺伝子の転写因子であるSREBP1やグルココルチコイドホルモン受容体GR、およびインスリン作用の標的である脂肪酸合成酵素やリポタンパク質リパーゼの遺伝子発現が著しく低下した。それゆえ、胎生後期における低栄養環境は、脂肪細胞の分化を促進する転写因子の発現抑制を介して、脂肪組織におけるインスリン感受性の低下をもたらすことが示唆された。
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