研究課題/領域番号 |
16K12737
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
島本 整 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (90187443)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | VBNC / コレラ菌 / 腸炎ビブリオ / Vibrio |
研究実績の概要 |
コレラ菌を含む多くの細菌は,低温や飢餓といった環境ストレスにより,生存しているが通常の培養法では培養できない状態(viable but nonculturable, VBNC)になることが知られている。VBNC状態の細菌は一般的な培養法では検出されないものの,動物の消化管内に入るなど特定の条件下では培養可能状態に復帰することが明らかとなっている。本研究では,食品や環境中に多数存在していると思われるVBNC状態の細菌の検出法を確立し,その詳細な復帰条件を明らかにすることを目的としている。 これまでの研究で,コレラ菌を貧栄養条件下,4℃で保存すると8から10週間で難培養状態となることが明らかとなっている。さらに,難培養状態になったコレラ菌を20℃で一晩(16時間以上)保温すると培養可能状態に復帰することもわかった。しかし,同じ状態のコレラ菌をPBSで希釈すると20℃で保温しても培養可能状態への復帰が認められず,低温保存しているコレラ菌の無菌上清で希釈した場合には,20℃で一晩保温すると培養可能状態に復帰した。このことから,低温保存中に,コレラ菌が何らかの因子を産生し,菌体外に放出していると考えられた。一方,Vibrio vulnificusにおいて,quorum sensingのautoinducerの1つであるAI-2 が難培養状態からの復帰に関与していることが報告されている(Ayrapetyan et al., 2014)。そこで、コレラ菌においてもautoinducerが関与している可能性があることから,コレラ菌のautoinducerであるCAI-1とAI-2の産生に関与している遺伝子,csqAとluxSの欠損株を作製し,コレラ菌の難培養状態からの復帰への影響を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画として,「VBNC誘導条件と培養可能状態への復帰条件の検討」については,菌体をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で低温保存することによって再現性よくVBNC状態への誘導に成功している。また,復帰条件についても温度上昇処理によって培養可能状態への復帰を行うことができている。また,「VBNC状態から培養可能状態への復帰に必要な因子の解析」についても,autoinducer(AI)を合成できない変異株を作製し,その影響について,それぞれの株からCFS(cell-free supernatant)を調製し,影響を検討した。一方,「EMA-qPCRまたはPMA-qPCRによるVBNC状態と培養可能状態の細菌の定量解析」については,まだ十分な条件検討ができていない。以上の進捗状況を考慮して「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
コレラ菌と同じビブリオ属細菌のV. harveyiにおいて,YeaZと呼ばれるタンパク質がVBNC状態から培養可能状態への復帰を促進しているという報告があった(Li et al., 2016)。コレラ菌においても同様の働きをしている可能性があるため,コレラ菌のYeaZオーソログについて,遺伝子破壊株の作製,大量発現株の作製を行い,VBNC状態への移行と培養可能状態への復帰を調べる。また,それぞれの株からCFS(cell-free supernatant)を調製し,VBNC状態のコレラ菌に添加した際の復帰状況の違いを調べる。最終的には,食品中のVBNC状態の細菌(特に食中毒起因菌)を復帰させる条件を検討し,さまざまな食品中のVBNC状態の細菌の検出法を確立することを目指す。
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