研究実績の概要 |
生存しているが通常の培養法では培養できない状態(viable but nonculturable, VBNC)の細菌は一般的な培養法では検出されないものの,特定の条件下では培養可能状態に復帰することが明らかとなっている。本研究では,Vibrio cholerae O139を材料として,VBNC状態への移行と培養可能状態への復帰に対する塩の影響について検討を行った。 まず,リン酸緩衝生理食塩水(PBS(-),0.8% NaCl)と人工海水(ASW,2.5% NaCl)を用いてVBNC状態への移行を行った。V. cholerae O139 MDO-6株をLB培地中で培養後,PBS(-) またはASWで洗浄し,同じ溶液中に菌を懸濁した。そして,4℃で菌液を保管し,VBNCに移行させた。その結果,コレラ菌でASWを用いた場合,速やかにVBNC状態になったが,PBS(-) を用いた場合はVBNC状態になるまでに長期間かかった。また,VBNC状態から培養可能状態への復帰には20℃で保温(静置)の条件で行った。ASWでVBNC化した菌の場合,明らかに復帰効率が低下したが,PBS(-) で希釈することによって復帰効率が上昇した。さらに,他の塩による影響の可能性を考えて,NaCl濃度のみを変えたPBS(-)(2.5% NaCl),ASW(0.8% NaCl)に加えてASW(5.0% NaCl)を調製し,実験に用いた。その結果,いずれも高NaCl濃度の方が速やかにVBNC状態に移行した。特にASW(5.0% NaCl)では2から3週間という短期間でVBNC状態に移行したが,培養可能状態への復帰には長時間(48時間)を要することが明らかとなった。 以上の結果より,コレラ菌にとって塩濃度はVBNC状態への移行と培養可能状態への復帰に重要な因子の1つであることが明らかとなった。
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