研究課題/領域番号 |
16K12786
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
出口 大輔 名古屋大学, 情報連携統括本部, 准教授 (20437081)
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研究分担者 |
近藤 一晃 京都大学, 学術情報メディアセンター, 講師 (30467609)
島田 敬士 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (80452811)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | グループ学習計測 / 形成的評価 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、実世界グループ学習を記録・分析・評価するための基盤技術の開発を通し、グループ学習を形成的な観点で評価するための指標を提供することを目的としている。これまで、計測と分析の難しさから参加者が対面で意見を交わす実世界グループ学習を工学的に扱った研究はほとんど行われていない。そこで、映像・音声・加速度センサ等の複数のデバイスを用いて参加者のグループ学習活動を計測し、「グループ内で主体性が共有されている状態」を自動的に定量化するための基盤技術の開発を目指している。具体的には、参加者に装着した主観視点映像(参加者装着カメラ)とウェアラブルセンサを用いることにより、(i)場の状況把握度の分析、(ii)場の注目度の分析、(iii)場の活動量の分析、の3つの観点での分析に関する技術課題を解決し、実世界グループ学習における発話中人物への注目度、活動の同期度という2つの非言語活動の計測を実現する。これにより、多くの教育機関で実践されているグループ学習で求められる形成的評価のための客観的指標の提供を目指している。 平成28年度は、グループ学習の記録・分析のための基盤技術の開発とデータベース構築を行った。まず、各参加者の主観視点映像(参加者装着カメラ)、グループ活動中の行動等を記録する加速度計、角速度計ならびに心拍計を搭載したウェアラブルセンサ、を同期して計測するシステムを構築し、グループ学習の活動計測技術基盤を整えた。また、各参加者の主観視点映像から注目対象を認識する技術、ならびにウェアラブルセンサの出力から各参加者の活動量を数値化する技術について複数検討し、誘目性の高い対象の検出、活動量の数値化の実現可能性を確認した。そして、ブロックを用いた共同作業、マシュマロ・チャレンジ、の2つのグループ学習を計測し、グループ学習データベースの構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グループ学習の記録・分析を行うために、各参加者の主観視点映像(参加者装着カメラ)、グループ活動中の行動等を記録する加速度計、角速度計ならびに心拍計を搭載したウェアラブルセンサ、を同期して計測・記録するシステムを構築した。平成28年度に構築したシステムを3人~4人で行う実際のグループ学習において評価したところ、正しくすべてのデータの記録が行えることを確認した。また、平成28年度に予定したグループ学習データベース構築に関しても計画通りにデータ収集を実施することが可能であった。 各参加者の主観視点映像からの注目対象の認識については、画像からの誘目性推定技術の適用を検討し、グループ学習中の参加者が見ているであろう対象の推定に利用可能であることを確認した。また、ウェアラブルセンサの出力から各参加者の活動量を数値化する技術の開発については、活動量の時間変化のグラフ化、グループ学習中のイベントの対応付け、といった複数の可視化方法を検討した。これらの検討から、平成29年度の本格的な基盤技術開発に対する方向性を確認した。 グループ学習データベースの構築においては、レゴブロックを用いた町並み製作、マシュマロ・チャレンジ、の2つを題材としてグループ学習の計測実験を行った。レゴブロックを用いた町並み製作においては、2グループ(1グループあたり3人)の計6人の同時計測を行った。また、マシュマロ・チャレンジのグループ学習においては、1グループ4人の共同作業を同時計測し、今後の発話検出も見越したデータ記録を行った。マシュマロ・チャレンジのグループ学習においては、参加者のコンピテンシー評価も行っており、平成29年度において計測データとの相関を調べる計画である。 上記に加え、本プロジェクトの成果を国際会議にて発表を行っている。これらのことから、本課題の遂行に関しては順調であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、グループ学習計測のための基盤構築ならびにデータベース構築を主に活動を行った。特にグループ学習データベースの構築においては、レゴブロックを用いた町並み製作、マシュマロ・チャレンジ、の2つを題材としてグループ学習の計測実験を行い、マシュマロ・チャレンジのグループ学習においては、参加者のコンピテンシー評価も行った。そこで、平成29年度においては以下の3つの項目について開発を進めるとともに、そこで得られた結果とコンピテンシー評価との相関についても調べる計画である。具体的には平成28年度に構築したデータベースを活用し、(1)人物の注意行動に着目した注目対象の認識、(2) 複数人物の視線集中状態の認識、(3) 場の注目度の分析、を行う。(1)については、主観視点映像中に複数の誘目性の高い対象が存在する場合に対応可能な手法を開発する。そして、注目対象の時間的な変化パターンを解析することにより、特定人物がどのような対象にどのような順序で興味を持ってグループ学習に参加したかを解析する技術を開発する。(2)については、グループ内の全参加者から得られる発話と注視の時刻共通部分の有無、発話開始時にタイミング良く聞き手が話者に注目した・話者交替に聞き手が対応した、といった情報から注目対象の同一性や注目行動の同期・集中・分散を求める技術を開発する。そして、発話者に対する場全体の注目度を導出する。(3)については、心拍計による内面的な心的変化なども推定可能な技術を開発するとともに、参加者それぞれのグループ学習における活動量を推定する。また、参加者全体の活動量を加速度・角速度情報から推定する技術を開発し、グループ間での比較を行い、各グループの活動量を相対的な指標として表現する。また、それらの情報を可視化することでグループ間の活動量の違いを分かりやすく教師に提示する方法を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実世界グループ学習の計測基盤の準備とテストに時間を要したことから、大規模なデータベース構築を実施することができず、ボランティアベースでの実験にとどまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に培ったノウハウに基いてデータベース構築を継続するとともに、データベースの規模の拡張を行う計画である。また、その成果を国際会議等を通して広く公表する計画である。
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