研究実績の概要 |
研究代表者の篠田は「劇症型・典型例以外の被害を公害被害者に包含するための枠組み:疫学史の観点からの試論」(http://id.nii.ac.jp/1294/00001030/)を前年度に論文発表したことに続き、今後の研究を展望するための研究の視座を提示した。公害被害者による裁判や患者認定において、被害の切り捨てを含意するような「線引き」が行われているが、その中で歴史的に疫学はどのように議論されてきたかを調査研究した。また被害の包括的な再定義のために疫学がどのような機能を果たす可能性があるのか、水俣病やイタイイタイ病、カネミ油症事件等の具体的な事例をもとに考察した。その過程で科学(疫学)と被害者の関係とともに被害者・支援者らの主体的な病像理解や民間療法的な対策の試みにも注目した。 研究分担者の柿原は日本公衆衛生学会で「東電福島原発事故後の小児甲状腺がんに関する評価の問題点」と題する口頭発表、国際ワークショップで"Origins of Radiation Effects Research Community in Postwar Japan: Hiroshima, Nagasaki, and Fukushima"などの発表を行い、放射線疫学の歴史について研究を進めた。 これらの研究から、疫学研究・調査の持つ歴史性、政治性、社会性と認識論的問題が明らかになり、被害者の視点からの研究と、政治や科学者共同体の視点や枠組みからの研究を総合した歴史記述が必要であるという見通しが得られた。 本格的な研究の展開に向けた今後の研究計画についても策定した。①分野横断的な「放射線疫学の研究会」を多分野の研究者と共同で2019年6月から立ち上げることが決まった。②疫学の歴史的・社会的機能について各地の公害被害や放射線被曝・被爆の実態を踏まえてさらに研究を深めていくこととした。
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