研究課題/領域番号 |
16K12803
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
野間 晴雄 関西大学, 文学部, 教授 (00131607)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | サトウキビ / カリブ海域 / 製糖業 / プランテーション / 技術史 / カナリア諸島 / 産業遺産 / 環境変化 |
研究実績の概要 |
本研究は,カリブ海域のサトウキビプランテーションの形成から発展,その拡大,衰退までの系譜を,1)農業と工業を融合した技術史体系,2)砂糖関連産業遺産の産業考古学,3)それをとりまく生態的変化と社会経済史的背景の3点から,現地調査の比較の手法と歴史文献の解読から明らかにすることである。 すでに2017年度にはスリナム,トリニダートトバコでの調査を終えて,その収集した歴史資料や画像資料などをデータベース化している途中である。 プランテーションは,農と工が不可分に結合した早熟な工業化という側面がカリブ海域のサトウキビ農園では著しいことがわかってきたので,従来の経済史研究が見落としてきた,製糖関連の機械・用具・工場やプランテーション農園の形態など,「もの」にかかわる事象を重視して分析を進めている。 また,2018年度中には,体調不良のため調査できなかったハイチとドミニカのサトウキビプランテーションについて,国内の文献や研究者との情報交換によって,ある程度の概観を得ることができた。とりわけ,農園の管理方法,プランテーションの労働力を,出生力構造と人口移動を重視して視点が重要なこと,他のプランテーション作物との競合などの視野に入れることが知見として得られた。これによって,人口圧をキーワードしてカリブ海域を動態的システムとしてとらえることができるという見通しがついた。 さらに,カリブ海域のサトウキビ栽培の技術や製糖技術を世界史な位置づけをするために,新大陸の移民史・移民政策や,日本国内,台湾の甘蔗栽培や製糖業についての知見を文献によってまとめていった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度に研究を終了予定であったが,申請者が2018年の初頭に重度の膝関節症となり,一時期は補助器具を用いての自動車通勤を余儀なくされた。そのため,単独でのカリブ海域での海外調査が不可能な状況となった。この1年間はもっぱら国内での文献資料収集とサトウキビ産業遺産のデータベース作成,国内学会での情報交換に充てた。 幸い,まだ完璧とはいえなが,症状はしだいに快癒に向かい,夏休み以降には海外調査が可能となった。場合によっては,収集資料のデータベース化,地図化を依頼している大学院生に,調査補助を兼ねて海外に同行させることも考えている。 今年度中になんとかハイチ,ドミニカの調査と,カナリア諸島,アゾレス諸島の調査を実施したいと思っている。
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今後の研究の推進方策 |
1年延長申請した2019年度には,ドミニカ,ハイチの調査でサトウキビ・ランテーションや製糖関連の産業遺産のデータベースを日本で作成することとその分析を中心に行う。研究成果は2020年3月の日本地理学会春季大会(駒澤大学)での口頭発表を,研究補助者との連名で予定している。とくにハイチは政情が不安定で,経済状況もカリブ海諸国の中では最も悪いので,現地の研究機関などと連絡を密に実施したい。 あとひとつの調査は,カリブ海域のサトウキビ・プランテーションの原型となった様式が存在すると予想される,カナリア諸島(スペイン領)とアゾレス・マデイラ諸島(ポルトガル領)の調査である。サトウキビ・製糖関連の産業遺産の目録を作成し,現地の文書館や博物館を訪問して,情報と資料を収集することを目標としている。 1年延長した最終年度にあたるので,「プランテーションとは何だったのか」という根源的問いを常に頭の片隅におきながら,研究の終了した2020年度に1年かけて,サトウキビ・製糖プランテーションの世界史的展開を,カリブ海域を核として単著にまとめたい。 そのために,今年中に,国内の伝統的サトウキビ栽培地である奄美諸島喜界島,香川・徳島の和砂糖の状況も訪問によって確かめる予定である。幸い,近世から近代にかけての讃岐・阿波の甘藷栽培や製糖技術史を修士論文として取り組む中国人の大学院研究生が入学してきたので,いっしょに調査を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度で3年間の研究期間が終了予定であったが,申請者の体調不良によって,最終年度に予定していた海外調査が実施できず,かつ療養により調査分析にも遅れが生じた。当初予算のうちで,とりわけ海外旅費が消化できず,1年の研究期間の延長を願い出た。 2019年度中に,カリブ海域のハイチ,ドミニカを調査し,かつスペイン,ポルトガルの大西洋上の離島における初期サトウキビプランテーションについて実態調査を行う予定である。さらに,国内での甘蔗産地である奄美と阿波・讃岐の調査もしている。これらによって,カリブ海域の製糖業の技術史的意義が明らかになると予想している。謝金はデータベース作成と製図,英文校閲,文献購入等に用いる。 また,今年度は2020年に予定しているカリブ海域を中心としたサトウキビ・製糖プランテーション史のグローバルな視点をいれた単著のための資料の準備期間と考えている。
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