研究課題/領域番号 |
16K12807
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
長谷部 徳子 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 教授 (60272944)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 放射線損傷 / 原子間力顕微鏡 / 歴史火山岩 |
研究実績の概要 |
鉱物中のウランやトリウムがα壊変する際に,親元素が反跳することによって結晶中に傷が生じると考えられており,αリコイルトラック(ART)と名付けられている。ウラン濃度が比較的高いジルコンでART年代測定が確立できれば,数百年~数万年オーダーの年代決定が可能になり,歴史時代の様々な考古学的,地質学的,環境学的イベントの解明に寄与できる。申請者らは原子間力顕微鏡を利用してジルコンを観察し,無数にある浅いくぼみを発見した。本研究はこのくぼみがARTであるかどうかを確定し,ART年代測定法を確立する事を目的として実施している。 今年度はこれまで観察した年代既知試料の年代測定結果の評価を行なった。入戸火砕流(約25-29 ka),鬱陵隠岐(約10 ka)に加えて,雲仙火山(約20 a)と白山火山(約58 ka)で評価したところ,概ね期待年代の25%程度の若い年代となった。ART年代式には,観察面へのregistration factorとしてARTのサイズが必要であり,エッチング後のARTの深さから直径約20 nmの球として年代を計算した。しかし年代測定結果から逆に考えると,実際にはエッチング前のサイズで考えるべきであり,そのサイズは5nmの球として見積れるかもしれない。 またARTの深さと直径のサイズの傾向を調べると,概ねART認定のクライテリアとした深さ10nm, 直径0.5μmを通る直線上にのった。直線に沿ったばらつきはエッチングの程度を反映していると思われる。一方直線から外れたものもあり,ARTではない,例えばinclusionによるetch pitを計測している可能性も否めない。やはり人工的にARTを発生させる方法を考案して観察する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初分析予定であった試料のうち,十和田八戸(約13 ka)や鬼界アカホヤ(約7 ka)の広域テフラの起源火山岩にはジルコンがほとんど入っておらずテスト試料としては不適切であることが判明したため,分析可能な追加試料を探したところ,当初予定に入っていたものの,政治的な理由から入手が困難であった白頭山の試料を入手することができた。この試料の鉱物分離および観察を実施するため,研究期間の延長を申請した。
|
今後の研究の推進方策 |
思いがけず入手が可能となった白頭山の試料の鉱物分離を実施しジルコンの観察を実施する。また観察した浅いetch pitが本当にアルファリコイルトラックであるかどうか確認するための重イオン照射の手法を考案したので,この研究を実施できるよう研究費の獲得を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
分析試料のうち,2試料から対象鉱物(ジルコン)が産出せず,観察用の消耗品や観察に伴う謝金に余剰が生じた。年度末に思い掛けなく新規試料の入手が可能になったため,次年度にそこからのジルコン分離や観察を行いたいと考えた。
|
備考 |
試料採集の内容を研究室のHPで紹介した。
|