研究課題/領域番号 |
16K12808
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
橋本 裕子 京都大学, 総合博物館, 研究員 (90416412)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 筋骨格 / 骨考古学 / 乗馬姿勢 / ピラスター |
研究実績の概要 |
国内の馬具出土古墳について都道府県ごとに一覧表の作成を進めている。特に岐阜県の本巣市と大野町は出土人骨と馬具についての関連について文献資料との照らし合わせ作業についても完了した。 今年度は乗馬研究者による、形状の異なる鐙を利用する乗馬姿勢に伴う筋肉痛とその部位についての実験を進めた。馬術(障害飛越)を専門とする乗馬経験者で、特に現在は日常的に乗馬は行わず、不定期に趣味としてたしなむ程度という人々を対象に、牧場主と被験者に研究の趣旨を説明し、許可を得られた男女17名を対象に実験を行った。また、経験者たちが初めて乗馬を行った際に経験した自身の筋肉痛や怪我の部位などについて聞き取り調査を行った。乗馬実験では、現在一般的に使用する鐙、儀式や催事に利用する舌長鐙を利用した。古墳時代に利用される壺鐙は再現が難しかったために、ハワイで現在も使用している革製の壺状鐙(ただし、つま先が出せる形状)を装着して、簡易なギャロップから疾走の段階までをそれぞれ実験した。実験回数は全員が合計5回の試乗をおこなった。その結果、大腿骨背側の筋肉や内転筋群のに過剰な筋肉痛が確認でき、膝から下には筋肉痛は確認できず、大腿部に極度に負荷がかかることが検証できた。また、腰部への負担や馬術試合では姿勢の美しさを保つために背筋を伸ばした姿勢が求められることから、背中の筋肉痛も確認できた。ただし、背中の筋肉は日常生活でも姿勢を保つことを心がけるため、その後筋肉痛にならないことが被験者の全員から確認できた。一方大腿部については、不定期にしか乗馬を行わないため、痛みの程度は異なるものの筋肉痛が起こることも確認できた。以上から、内転筋群に大きく負荷のかかる姿勢が、日常生活においては伴わないことが実証でき、大腿骨の背側に認められるピラスターの形状変化に伴う姿勢は乗馬姿勢以外には該当するものが無いということが確認できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
古墳時代の人骨そのものの観察は、通常勤務の勤務形態の変化と8月下旬から9月初旬に京都で開催された第8回世界考古学会議の主催者としての業務が忙しく、予定したよりも調査にかけられる時間が少なくなった、しかし、次年度以降に予定していた障害飛越を行う乗馬経験者を中心に、乗馬姿勢初期段階に起こる筋肉痛、鐙の種類ごとの乗馬姿勢と脚部の状況について、実際に体験してもらい聞き取り作業を繰り上げて行い、成果として報告することができた。 実験の結果、大腿部の内転筋群に大きく負荷のかかる姿勢が、日常生活の運動レベルでは伴わないことが実証できた。古墳時代と現代では日常の生活において利用する筋肉が等しいわけではないが、定住化した生活の中で大腿骨の背側に認められるピラスターの形状変化に伴う姿勢は乗馬姿勢以外には該当するものが無いということが確認できた。これにより、古墳時代の一部の男性に確認できるピラスターの突出する形状は、当時大陸よりもたらされた馬と、この馬に乗るための乗馬姿勢が大きく関係することが明確になった。これらの成果は第8回世界考古学会議で発表した。 次に、岐阜県の本巣市と大野町に所在する古墳群から出土人骨と馬具についての関連についてまとめるとともに、文献資料に記載されている事項との照らし合わせ作業が完了し、歴史的背景と関連付けて検討するところまで作業ができた。
|
今後の研究の推進方策 |
国内出土の資料観察の許可を得た人骨資料の観察、並びに韓国三国時代の人骨資料についても釜山大学校、東新大学校、国立文化財研究所の観察許可を得ることができたので、これらの資料を観察し、調査報告書から確認できる馬具等の出土資料との相互関連について検討する。 また、現在の調査方法である肉眼観察とデジタル・ノギス(ミツトヨ製)を維持しつつ、人骨の所蔵機関に許可を要られれば大腿骨中央部をシリコン樹脂で型取りして形状の観察を行っている。三次元の形状をより客観的に示すことができるように、現在(独法)奈良文化財研究所の金田明大研究員とどのような方法が可能か協議の最中である。 成果については、昨年度に行った乗馬経験者による身体への負荷の実験結果と岐阜県の調査成果については、9月に英国・Liverpool John Moores Universityで開催される第19回生物人類学・骨考古学研究会議において成果の発表をするとともに、論文として投稿する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は予定していた人骨実見調査が職場である京都大学所蔵資料の他は岐阜県の資料のみであった(岐阜の資料は京都大学に一時的に搬入されている機関に行った)。また、国内での国際会議に主催者側として準備段階から携わることになったこともあり、調査だけでなく、予定していた海外での資料調査と学会発表を行うことができなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度から職場を異動(京都大学総合博物館から、京都大学医学研究科付属先天異常標本解析センターへ異動)し、研究に携われる時間を格段に増やせることとなった。そのため、前年度に予定していたが、調査が叶わなかった人骨資料について速やかに作業を行うとともに、国内・国外(韓国)の所蔵機関から既に観察許可を得ている資料についても調査を行う予定である。
|