本研究ではこれまでの具体的な実証性に乏しかった製塩研究の課題を整理し、その課題解明のために遺跡における製塩の痕跡を抽出する手法の開発をおこなった。具体的には製塩遺跡における堆積物に含まれる珪藻や海草付着性の微小生物の遺存体を検出することにより、製塩痕跡を厳密に認定する手法について検討を加えた。 まず、縄文時代の製塩遺跡として著名な茨城県法堂遺跡の製塩炉の堆積物を分析した結果、海草に特徴的に付着する微小生物を多量に検出することに成功し、かつ、その内のいくつかは被熱していたため、海草自体がその場で焼かれて灰化したものと考えられた。このことによって、いわゆる、藻灰が存在した可能性が指摘できた。次に東京都西ケ原貝塚から出土した土器の内部に含まれていた灰の分析を実施し、その内部から同様に海草に由来する微小生物を検出し、藻灰が土器に内蔵されていたことを実証した。これらの成果を踏まえて、海草を焼いた灰は製塩の際には土器の内部で結晶媒体として利用された可能性を指摘した。 これらの成果については成果公開シンポジウムや日本考古学協会の総会研究発表において公表した。一方で内陸地域の遺跡から出土する製塩土器の正確や、その意義、または灰を利用した製塩技術が縄文時代以降にどのように展開するかという点については課題として残された。将来的にはこれらの課題に取り組むことにしたい。
|