研究課題
火山周辺の地下水のフッ素濃度が他の地域よりも高くなる原因と地下水の起源を把握するため、水質科学を専門とする九州大学の吉村和久氏の協力のもと、湧水・河川水・井戸のフッ素濃度の再測定と、酸素・水素安定同位体比分析を行なった。結果は、有珠山周辺の地下水は太平洋の蒸発水を基本としていることと、フッ素の高濃度の原因は火山ガスや温泉水の影響ではなく、雲母・蛍石などのフッ素が固定化された鉱物が約1万年以上前の山体崩壊により有珠湾周辺に移動し、それらからの溶出による可能性が高い点を指摘できた。次に、地下水のフッ素濃度の高い範囲の有珠モシリ遺跡とオヤコツ遺跡、低濃度の範囲に位置する北黄金貝塚の出土人骨について、下顎の第2小臼歯のエナメル質のフッ素量を測定して比較した。結果は、歯の表層のフッ素量は北黄金貝塚よりも有珠地区の方が平均で0.01%高い値を示した。さらに、有珠モシリ遺跡と北黄金貝塚から出土した人骨群について、フッ素症と思われるエナメル質形成不全および齲蝕の出現状況を調査したところ、有珠モシリ人骨群は北黄金人骨群に対してエナメル質形成不全の出現率が高く、齲蝕の出現率が低い傾向にあることを明らかにした。これらのことから、歯冠エナメル質のフッ素量は有珠地区の方が北黄金貝塚よりも多く、遺跡周辺の湧水のフッ素量との相関関係が認められた。また、フッ素症の出現率も有珠地区が高いことから、湧水中のフッ素量との関連が指摘できる。ただし、フッ素症がみられた個体の歯冠のフッ素量が必ずしも高い値ではないことから、試料の採取方法の検討とさらなる分析の実施が必要である。本研究における歯のエナメル質からフッ素を抽出した方法と生前の飲料水中のフッ素濃度と古人骨の歯のフッ素濃度に相関関係があるとの分析結果は、日本文化財科学会および日本人類学会の研究発表において報告している。
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