研究課題/領域番号 |
16K12813
|
研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
後藤 忍 福島大学, 共生システム理工学類, 准教授 (70334000)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 博物館教育学 / メモリアル博物館 / 福島第一原発事故 / 展示内容 / テキスト・マイニング |
研究実績の概要 |
今年度は,主に二つの研究を行った。すなわち,1)福島第一原発事故の教訓を伝える施設の展示内容の分析,2)その他の負の遺産・教訓を伝える施設の展示内容に関する調査,である。 1)福島第一原発事故の教訓を伝える施設の展示内容の分析については,2016年7月に開館した「福島県環境創造センター交流棟(コミュタン福島)」の展示説明文を対象に,テキスト・マイニングによる定量的分析を行って特徴を明らかにした。また,福島第一原発事故の事実と教訓に関する代表的な報告書として,国会事故調の報告書を取り上げ,福島県の事故対応における問題点や教訓を記した部分を抽出してテキスト・マイニングを行うとともに,その結果を,コミュタン福島の展示内容の分析結果と比較した。「教訓の継承」,「放射線教育」,「人権教育」の観点を踏まえて比較を行った結果,a)国会事故調の報告書において福島県の事故対応における問題点や教訓に関するキーワードとして多く記載された「ヨウ素剤」,「SPEEDI」,「地域防災計画」,「オフサイトセンター」などは,コミュタン福島の展示ではほとんど説明されていなかった,b)子どもの被ばく感受性や被ばくによる「死」,原発事故の際の「安定ヨウ素剤」の服用などは説明されていなかった,c)行政の不適切な対応による加害責任にはほとんど触れられず,「知的理解」に該当する「原発事故子ども・被災者支援法」などの法律や「放射線管理区域」の基準についても説明されていなかった,など,コミュタン福島の展示の特徴が明らかになった。 2)その他の負の遺産・教訓を伝える施設の展示内容に関する調査では,チェルノブイリ原発事故に関するウクライナの「国立チェルノブイリ博物館」,水俣病に関する「水俣市立水俣病資料館」および水俣病センター草思社の「水俣病歴史考証館」を訪問し,展示内容の調査や運営主体へのヒアリング調査などを行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で予定していた通り,福島第一原発事故の教訓を伝える役割を有する施設として2016年7月に開館した「福島県環境創造センター交流棟(コミュタン福島)」の展示内容について,展示説明文を対象にテキスト・マイニングによる定量的分析を行って特徴を明らかにし,論文としてまとめて発表した。また,研究計画では,2020年に整備予定のアーカイブ拠点施設である「ふるさとふくしま再生の歴史と未来館(仮称)」の基本構想や基本設計に関するパブリック・コメント時に提言したい旨を記載しているが,実際に整備主体となった福島県の担当者との交渉の機会を,市民団体との共同で得て,上記論文を根拠に改善の申し入れを行った。 その他の負の遺産・教訓を伝える施設の展示内容に関する調査として現地調査を行ったチェルノブイリ博物館については,分析可能なデータとして,音声ガイダンス(計約2時間30分)を入手し,その分析を進めている。また,水俣病に関する「水俣市立水俣病資料館」と「水俣病歴史考証館」については,展示の詳細部分の撮影が許可されていなかったため,テキスト・マイニングによる説明文の定量的分析を行うことは断念したが,担当者へのヒアリング調査を実施して,展示物の特徴や変化,課題などを把握することができた。 民間の施設である「原発災害情報センター」での共同研究による独自の展示物の作成については,担当者と何度か打ち合わせを行って方向性は固まってきているが,施設側の事情もあり,まだ作成には至っていない。 このように,一部の施設で展示内容の分析や独自の展示物の作成ができなかった点はあるものの,研究の中心と位置づけていたコミュタン福島の展示説明文の分析を行って成果を論文にまとめており,また,チェルノブイリ博物館のデータも入手して分析を進めているところであることから,進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
チェルノブイリ博物館の音声ガイダンスのデータ分析については,引き続き作業を進め,2017年度中に成果をまとめて国内外の学会等で発表する。 来館者への教育効果の分析については,来館者の協力を得られる方法を検討する。福島県環境センター交流棟(コミュタン福島)では,小学生が主なターゲットであるため,小学生を引率する先生方に調査への協力が得られないか,打診を行う。また,民間の施設である「原発災害情報センター」では,担当者から協力していただける旨の内諾を得ており,独自の展示物の作成と併せて,作業を進めたい。
|