研究課題/領域番号 |
16K12819
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
隈元 崇 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (60285096)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 地形変化プロセス / 地形変化シミュレータ / 薩摩半島・伊集院地区 / 火砕流堆積面 / 谷底平野 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では,初期地形を過去の地形に設定して地形変化シミュレータ(LEMs)の計算結果を現実の現在の地形と比較することで計算に必要となる地形変化プロセスのパラメータを定量的に評価することを目的とした.そのために,鹿児島湾北部の入戸カルデラから約29000年前に流下した入戸火砕流によるシラス台地を,その後に河川が侵食して形成した谷底低地が広がる伊集院地域を対象地域に選定した.ここで,国土地理院が公開している10m-DEMと海上保安庁による沿岸海域データを統合してグリッド長15mの正方格子でDEMを作成した.その初期地形は,DEMの谷地形を接峰面作成のアルゴリズムで埋める処理を施して近似した.従来の低解像度用のLEMsは,流路幅が1グリッド長を超えることは想定せず,流路と陸地が混在するDEMとしてとらえた簡便なモデルであった.そのため,高解像度のDEMにそのまま適用すると,流路幅が1グリッド長に限定され,流路の位置も一度固定されると下刻により変遷しないことにより,峡谷の形成などの現実の地形との乖離があった.その点を,本研究では流域面積と谷幅の経験的に検討することで,谷幅をVW、集水面積をCAとおいて,「log(VW) = 0.60log(CA) - 1.89」という回帰式を得た. 谷の拡幅作用は、集水面積が大きくなるにつれて土砂の侵食力・運搬力も増大して側刻の作用力が大きくなるためと考えられる。さらに,本研究では,この回帰式のばらつきより,シラス台地の谷壁面の地すべり・崩壊による後退速度の考察も行った.こうしたプロセスをLEMsに取り入れることで,谷の拡幅作用を表現できるモデルに改良し,伊集院地域の現実の地形に見られるシラス台地の幅400~700m,高さ30~110mの開析谷地形を過去から29000年間の計算で表現可能な地形変化シミュレータを構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年計画の2年目においては,研究計画書の5つの具体的作業項目である(a) UAVドローンと高所斜め撮影を組み合わせた野外測量作業,(b) VOXEL型数値標高モデルの作成手法の確立,(c) 海食崖の後退や波食に関する地形変化プロセスのパラメータの推定,(d) 非定常イベント(地すべり・斜面崩壊・洪水)の確率モデルによる導入,(e) 陸化した段丘面の侵食に関わる流路網の設定アルゴリズムの高度化の中から,(e)のモデル化のために,鹿児島県・薩摩半島の伊集院地区において,3万年前の姶良カルデラ噴火に伴う火砕流堆積面のその後の地形変化を対象として,(a) 野外測量作業と,(c) 決定論的な地形変化プロセスのパラメータの推定,および(d)確率論的な地形変化プロセスのパラメータの推定についてそれぞれ作業を行った.その結果,従来の疑似3次元のDEMを用いた地形変化の計算よりも,谷の拡幅作用を表現できる3次元の地形変化がシミュレートできることを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
最終3年目では,計画書に記載した5つの課題(a)~(e)の中で,初年度から継続している(a) 野外測量作業と(c) 決定論的な地形変化プロセスのパラメータの推定検討を引き続き行う.また,昨年度から検討を始めて具体的な試算結果を得た(d) 確率論的な地形変化プロセスのパラメータの推定手法の高度化と,(e) 流路網の設定アルゴリズムの高度化について,野外調査によって検証を進める.初年度にプログラムを開発した(b) VOXEL型数値標高モデルの作成手法の確立について,(c)と(e)の成果との融合を今年度はすすめることで,本研究の目的である1m解像度の高分解能なVOXEL型数値標高モデルを用いた100年から10万年スケールの低地地形を対象とした地形変化シミュレータを完成させる.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)天候条件により,当初予定していた現地野外測量調査の実施回数が減じたため. (使用計画)昨年度に実施できなかった現地野外測量調査については,今年度に繰り越し金額を使用して実施する.
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