研究課題/領域番号 |
16K12825
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三輪 富生 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (60422763)
|
研究分担者 |
森川 高行 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (30166392)
山本 俊行 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (80273465)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | シェアリングモビリティ / オプション価値 / 公共交通 / 中山間地域 |
研究実績の概要 |
今年度は,関連する既往研究をレビューし,市民が認識する交通システムの存在価値をオプション価値の理論に基づいて整理した.その上で,交通システムのオプション価値を推定する方法を検討した.中山間地域の交通システムはしばしば利用頻度が低く,従来のような効用関数の推定に基づく方法では,適切な価値のオプション推定が困難である.このため,ある交通手段の利用頻度モデルから需要曲線を導出し,消費者余剰を推定する方法を検討した.さらに,ある交通サービスを維持するための追加的税負担に対する支払意思額からオプション価格を推定する方法を検討した.交通サービスの存在価値と解釈できるオプション価値は,オプション価格と消費者余剰の差として計算されることになる. また,個人属性や世帯属性,普段の交通移動,通勤・通学,買い物,通院におけるバスやタクシーの利用状況,ライドシェアや自動運転タクシーの利用意向,それらの交通サービス維持・運営するための追加的な税負担に対する支払意思を問うアンケート調査票を設計し,大都市から中山間地域までを含む広範な地域を対象としてWebアンケート調査を実施した. 収集したアンケート調査データを用い,バスおよびタクシーの利用頻度モデルおよびオプション価格推定モデルを構築し,オプション価値を推定した.この結果,大都市や中核都市の高齢者はバスに対して消費者余剰以上の価値を認識し,オプション価値が存在すること,都市規模によらずタクシーについては価値が見出しにくいことなどが明らかとなった.これらの差異は,生活スタイルや鉄道などのその他の交通システムのサービスレベルの影響によるものと考えられる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交通システムの存在価値,すなわちオプション価値について,経済理論と整合した推定方法を構築したこと,大規模なWebアンケート調査を設計し,これを実施したこと,収集したアンケート調査データを用いてバス及びタクシーの存在価値を推定したことなどから,研究の進捗は概ね順調である.特に,バスは,少子高齢社会における交通不便地域における重要な移動手段であるが,その存在価値が推定可能であることが示されたことは有意義である. しかし,モデルの構築結果は必ずしも十分ではない点が存在することが明らかとなった.これは,モデル構造において比較的強い経済学的仮定が組み込まれており,柔軟な構造とはなっていないためである.特に,交通移動にかかる費用と移動頻度の関係において,高齢者や中山間地域の居住者はその他の地域の居住者とは異なる性質がある.例えば,都市によっては,高齢者は自治体からの補助によりタクシーや公共交通利用料金が補助されており,価格感度が低いことなどが挙げられる.このため,分析モデルの構築には,データの細分化や説明力の高い変数の適切な選択が必要であることが明らかとなった.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は,居住する地域の特性やサービスレベル,普段の交通行動などを詳細に考慮しつつ,交通システムの存在価値の推定モデルを精緻化する.さらに,ライドシェアシステムは自動運転タクシーなど,その他の交通システムの存在価値についても推定を行う.また,市民は,数年以上先の将来的なサービス利用を考慮して追加的税負担の可否を判断していると考えられる.本研究では,既往研究に倣い,追加的税金の支払いを行う1か月間のみを分析期間としているが,上記のように数年以上将来を考慮した意思決定を行っているとすれば,推定モデルの改良が必要である.この点は,挑戦的な内容である.昨年度収集したデータが不十分である場合は,補足データの収集も含めて検討を進め,より現実的な交通サービスの存在価値を推定する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初は紙媒体によるアンケート調査を計画しており,そのための人件費等を計上していたが,広範な地域を対象とした調査を行う必要性が明らかとなったため,Webアンケート調査を行うこととした.このため,その他費用が増額したが,人件費および旅費が大幅に節約できたためである.
|
次年度使用額の使用計画 |
2年目にあたる今年度は,昨年度の調査によって得られなかった情報を,現地調査等を通じて収集することを検討しているため,そのための人件費や旅費が計画以上に必要となる.したがって,生じた差額はこれらの目的に利用する予定である.
|