研究課題/領域番号 |
16K12860
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研究機関 | 国立研究開発法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
勝島 隆史 国立研究開発法人森林総合研究所, 森林防災研究領域, 主任研究員 (00611922)
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研究分担者 |
安達 聖 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 観測・予測研究領域 雪氷防災研究センター, 特別研究員 (80719146)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 雪氷災害 / 融雪期災害 / 積雪内部の選択流 / MRI |
研究実績の概要 |
春先の急激な融雪や積雪への降雨により、湿雪雪崩や落雪、融雪出水、土砂災害などの融雪期災害が発生する。融雪期災害の発生予測では、積雪内部での選択的な水の流れ(選択流)の把握・予測が重要である。 本研究では、積雪内部の水分分布をMRIを用いた非破壊高速撮像により選択流の形成と発達の様子を捉えることで、積雪内部の選択流の形成の物理過程を明らかにするとともに、どのような積雪でどのような選択流が形成されるのか、自然積雪での選択流の全容を明らかにする。初年度の平成28年度は、MRIによる積雪内部の水分分布の非破壊高速3次元高分解能撮像手法の開発と、開発した手法を用いた積雪内部の選択流の形成と発達の測定を、目標として研究を実施した。 MRIによる積雪内部の水分分布の非破壊高速3次元高分解能撮像手法の開発については、静磁場強度1.5Tの永久磁石を使用する雪氷用MRIにおいてグラジエントエコー法と Compressed Sensingを用いた撮像手法を適応することにより、撮像時間が2.5分で、空間分解能0.4mmの、高速3次元高分解能撮像に成功した。 次に、積雪内部の選択流の形成と発達を捉えるために、MRI内にカラムに充填した乾雪の試料を入れて浸透実験を実施し、開発した撮像手法を用いて雪試料内部の水分分布の時間変化を測定することで、選択流が乾雪内部において形成・発達する様子を高空間分解能かつ高時間分解能で捉えることに世界で初めて成功した。また自然積雪から採取した雪質の異なる複数の乾雪の試料を用いて浸透実験を実施し、粒径や密度の異なる様々な雪質で選択流が形成することを実験的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載したように、年度当初の計画では、MRIによる積雪内部の水分分布の非破壊高速3次元高分解能撮像手法の開発と、開発した手法を用いた積雪内部の選択流の形成と発達の測定を、本年度の目標とした。この目標に対して、非破壊高速3次元高分解能撮像手法の開発については撮像時間が2.5分、空間分解能0.4mmの撮像性能を実現した。また選択流の形成と発達の測定については、ふるい分けした雪や自然積雪から採取した雪を使用して浸透実験を実施し、これらの雪において選択流が形成・発達していく様子を、高空間分解能かつ高時間分解能で捉えることに世界で初めて成功した。 これら挑戦的課題に対して当初の計画通りに研究を遂行することが出来たことは、今後の研究の更なる飛躍に対して基幹となる成果であることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、28年度に開発したMRIによる非破壊高速3次元高分解能撮像手法を用いて、自然積雪から採取した多種多様な雪試料を用いて浸透実験を実施し、積雪内部の選択流の形成と発達を実験的に明らかにする。また、選択流の形成条件や幾何学的な特徴と、雪の物性値との関係性を明らかにするために、雪氷用X線μ-CTにより雪の3次元構造を捉えるとともに、MRIとμ-CTを併用することで、既存の手法では解明が不可能であった間隙スケールでの浸透現象の解明に挑戦する。また、実験により得られた選択流の形成と発達を数値再現するモデルの開発に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
MRIの静磁場の不均一性に起因する画像のひずみやムラを解消する手法を適用するために、年度当初に雪氷MRI用2次シムコイルと雪氷MRI用撮像シーケンスの作成費用を計上した。開発を進める段階で雪氷MRI用2次シムコイルの作成に高額な出費が必要であることと、雪氷MRI用撮像シーケンスによるソフトウェア対策によりひずみやムラが十分解消可能であることが判明した。 そのため、安価な雪氷MRI用撮像シーケンスによる対策のみを採用したことから、特に物品費が予定額を下回ったため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度の浸透実験の結果を踏まえて、高速3次元撮像手法の更なる高空間・時間分解能化を実現するために、雪氷MRI用撮像シーケンスの改良のための開発費として使用する。
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