ウィンドプロファイラ(WPR)は、乱流等が生成する大気の屈折率擾乱に起因する電波散乱(大気エコー)を用いて、晴天大気中における風速の高度プロファイルを計測する。次世代WPRでは、大気乱流の詳細を計測できる観測分解能の達成を目指している。WPRでは、不要エコー(クラッタ)が混入することで、風速や大気乱流の測定データ品質が悪化する問題点がある。クラッタによる測定データの品質悪化を極力防ぐことが、次世代WPRに求められる優れた観測分解能の実現に必要である。 東京都小金井市に設置されたWPR(LQ-13)と兵庫県神戸市に設置された境界層レーダ(神戸BLR)は、複数のクラッタ抑圧用サブアレイアンテナ(SA)と適応信号処理を用いた受信アンテナのサイドローブ制御によりクラッタを動的に抑圧する、アダプティブクラッタ抑圧(ACS)の機能を持つ。SAで受信される強い外来波は、受信信号を飽和させることでACSの性能を低下させる。バンドパスフィルタにより外来波の混入を防ぐことで、ACSの性能低下を低減できることがわかった。LQ-13と神戸BLRは、周波数切替え送信と適応信号処理によりレンジ分解能を向上させるレンジイメージング(RIM)と、オーバーサンプリング(OS)の機能を有する。RIM・OS・ACSを用いたLQ-13と神戸BLRによる観測を実施した。観測の実施により、RIM・OS・ACSの組み合わせが低高度(短レンジ)におけるグラウンドクラッタの低減に有効であることがわかった。また、神戸BLRによる観測結果から、高速道路の出入り口を通行する車両や高層ビルを発生源とする可能性があるクラッタを低減していることを確認した。コヒーレントドップラーライダーによる鉛直流測定結果をLQ-13による鉛直流測定結果と比較することで、ACSによるクラッタの低減効果を評価する取り組みも実施した。
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