研究実績の概要 |
大気圧プラズマの医療応用を最終目的として、大気圧プラズマがもたらすさまざまな生命応答を探索するとともに、生体に対するそれらのプラズマ作用のメカニズムの解明に向けた研究を推進した。特に、H28年度に研究代表者らが発見した「プラズマ誘導性の細胞質Ca2+上昇現象」(Sci.Rep.25728,2016)に焦点をあて、プラズマ誘導性に惹起される細胞内Ca2+上昇応答に注目した研究を推進した。本研究では糖尿病や肥満に対するプラズマ医療の可能性を鑑み、インスリン標的細胞(脂肪細胞)に対するプラズマ応答性について調べた。
未分化な線維芽細胞ではプラズマ照射バッファー添加刺激により細胞内カルシウムイオン濃度の周期的な上昇応答を示すが、分化した脂肪細胞では比較的ゆっくりで持続的な細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が誘導された。また、線維芽細胞から脂肪細胞への分化過程におよぼすプラズマ照射の影響について発現遺伝子変動と細胞内蛋白質リン酸化変動により検討したところ、プラズマ照射は脂肪細胞への分化に対して抑制的な作用があり、この作用にはプラズマによって誘導される「細胞質Ca2+上昇」に加え、細胞内シグナル伝達関連酵素(Erk1/2,Erk5など)の活性化が関与する可能性を明らかにした。
プラズマ誘発性の細胞質Ca2+上昇応答を司るカルシウム透過性チャネル分子を同定すべく、その候補チャネルとして、TRPV1を外来性に発現させた培養細胞を用いた分子レベルでの解析を推進した。TRPV1分子の機能性システイン残基の置換変異体を作製しプラズマ応答性に対するチャネル分子構造-機能協関を引き続き解析している。本研究により明らかにされた「プラズマ応答性のTRPチャネルを介した細胞質Ca2+上昇作用」は、大気圧プラズマがもたらす多くの生命現象に深く関与すると考えられる。
|