研究課題
本研究では、ラマン分光法を基盤とした非染色・非標識・非破壊・非侵襲 分子イメージング法を用いることで、褐色脂肪細胞の生きたまま、そのままの状態を可視化し、その特殊な脂質代謝過程の動態を明らかにすることを目標として、研究を行った。研究にあたり、測定装置の高度化を目指した。ピーク強度の高い高繰り返し白色レーザー光源の導入を行い、信号の高効率発生を狙った。また、近赤外域にて感度の高いCCD検出器の導入を行い、高感度測定を試みた。その結果、細胞内脂肪滴の非線形ラマン(coherent anti-Stokes Raman scattering; CARS)分光イメージングや第二高調波発生(second harmonic generation; SHG)イメージング、そしてCARS分光イメージングの結果を用いた脂質不飽和度イメージングに成功した。これに加え、細胞内脂質合成について積極的に介入する実験を行った。具体的には、不飽和脂肪酸合成酵素であるSCD1(Stearoyl-CoA desaturase-1)の働きを抑制する薬剤投与によるSCD1抑制や遺伝子操作によるSCD1過剰発現を行い、脂肪滴内の脂質不飽和度をCARS分光イメージングにより評価し、その変化を追跡した。SCD1を抑制した際は、エステル結合由来のC=O結合のバンドで規格化したcis C=C結合のバンドが有意に減少した。すなわち、脂肪滴内の不飽和脂質量が、脂質総量に対して有意に減少していた。これに対して、SCD1を過剰発現させた細胞株でも同様な解析を行ったところ、不飽和度の変化が少なかった。このことから、褐色脂肪細胞株は通常の状態で不飽和脂質を豊富に脂肪滴に蓄えていることが示唆された。またSCD1の発現量に関係なく、小さな脂肪滴ほどより高い不飽和度を持つことも明らかにできた。
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Biomedical Optics Express
巻: 9(1) ページ: 245-253
10.1364/BOE.9.00024
http://www.bk.tsukuba.ac.jp/~CARS/