研究課題/領域番号 |
16K12870
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神保 泰彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20372401)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / 細胞・組織 / シグナル伝達 / ナノバイオ |
研究実績の概要 |
長期的なストレスの継続がうつ病などの精神疾患につながる場合があることは広く知られているが,そのメカニズムは不明である.本研究ではストレス応答において主要な役割を果たすと考えられている視床下部-下垂体-副腎系のネガティブフィードバックシステムに焦点を絞り,実験動物から採取した視床下部室傍核(ParaVentricular Nucleus; PVN),海馬,内側前頭皮質からなる共培養系を構築してその神経活動計測を試みる.計画初年度は,これまでほとんど報告例がないPVNの培養手法につき検討した.ラット新生児から脳全体を摘出,冠状面の連続切片試料を作成してPVNを含むと考えられる位置の切片を選択,標的領域を切り出すという手法をとった.採取した試料から酵素処理により細胞懸濁液を調整,培養皿に播種した.Neurobasal Mediumに成長因子等を添加した培地とDMEMに血清を加えた場合を比較した結果,後者が適するとの結果を得た.グリア細胞の増殖を抑制する薬剤の効果についても検討したが,ネガティブな結果となった.以上の結果を勘案して血清有・細胞増殖抑制剤無の条件で培養を行なうこととし,播種後2週間の試料につき,細胞内Ca2+イオン濃度変化を指標とする自発活動評価を行なった.同時に細胞核を標識する色素による染色も実施,観察対象となる細胞数の指標とした.最高で全体の50 %程度,平均的には約20 %の細胞からCa2+イオン濃度変化が検出された.(1) Ca2+イオン濃度変化のタイムコースは遅い(数10秒以上),(2) 周期的な振動を示す細胞がある,(3) 細胞間の活動に同期性は認められない,という結果になった.形態的な観察結果と比較したところ,Ca2+イオン濃度変化を生じた細胞群は明確な突起をもたないものが多く,突起を有する細胞群については明確な蛍光強度変化は認められないことがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来ほとんど報告がなかったPVN組織の採取と培養のプロトコルにつき検討し,実験動物から採取した脳全体を連続切片を作成して,標的組織を含む切片を選択してPVN部分を切り出すという手法で調整可能,DMEMベースで血清を添加した培地で2週間以上維持できることが確認できた.PVNの活動に依存したストレスホルモンの分泌が海馬など中枢脳神経系に与える影響の解明に向けて,研究の第1段階はクリアできたと考えている.培養系に含まれる細胞群の種類や特性を調べた後,ネガティブフィードバック系を構成する他の要素との共培養デバイスの設計・製作へと進むことを想定している.
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今後の研究の推進方策 |
ストレスを含む生体内外の状態を反映してホルモン分泌を制御する中枢であるPVNを培養系で維持する条件が確立されたことから,今後はストレス応答ネガティブフィードバック系in vitroシステムの構築を目指して以下2つの事項に注力して検討を進める: (1)PVN単離培養系に含まれる細胞の特性について調べる.細胞内Ca2+イオン濃度変化の計測においてアストロサイトと考えられる細胞群の自発活動が検出されたことを勘案し,当該細胞のCa2+変動に主要な役割を果たすとされる電位依存性K+チャネル[Wu et al. 2015, Role of voltage-gated K+ channels in regulating Ca2+ entry in rat cortical astrocytes]のアンタゴニスト(4-aminopyridime; 4-AP)が存在する条件下でCa2+イオン濃度計測を実施,その寄与を明らかにする. (2)共培養デバイスの設計と製作を行なう.複数の部位から採取した試料を1枚の基板上で培養するためにpolydimethylsiloxane(PDMS)製のマイクロ細胞培養区画を複数設けることを想定し,最適な加工プロセス条件を確立する.具体的には加工時の加熱・硬化過程で1.5 %程度生じるとされるPDMSのサイズ変化を勘案したパターン設計,アラインメントを実施する.製作したデバイス上でPVNと海馬の共培養を行ない,PVNの活動レベルに依存したストレスホルモンの放出が海馬に及ぼす影響,そのPVNへのフィードバックの可視化を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
これまで報告例のほとんどない生体試料の調整と培養手法の確立に注力して初年度の研究を実施したことにより,神経活動計測実験回数が当初の計画よりも少なくなったことによるものである.
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次年度使用額の使用計画 |
生体試料の調整手法が確立できたことから,次年度は神経活動計測実験を集中的に実施することを計画している.国内外での成果発表も積極的に行なうものとする.
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