研究課題/領域番号 |
16K12877
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三浦 治郎 大阪大学, 歯学部附属病院, 助教 (70437383)
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研究分担者 |
橋本 守 北海道大学, 情報科学研究科, 教授 (70237949)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糖化 / 糖尿病 / 象牙質 |
研究実績の概要 |
コラーゲン分子にパルス紫外光を照射すると、コラーゲン自身の青白い自己蛍光が発生し、さらに非線形光学現象によってSHG光も発生する。そこで、本研究では蛍光性AGEに着目し、光を指標にして組織老化や糖化を評価する診断法を開発する。 糖尿病患者の皮膚や血管にはAGEsが通常より多く蓄積されており、歯髄内においても異所性の石灰化が起こるとされている、さらに歯髄においてもAGEs沈着が石灰化現象と密接な関連があるという報告や、蛍光性AGEsの一種であるpentosidineの沈着が齲蝕罹患部位に認められるという報告がされている。我々はこれらの糖化において二次的に起こる現象を利用することで、蛍光寿命測定の原理を応用した生体における糖化コラーゲンの蓄積を検出することを目的とした。 本研究で提案する手法はナノ秒蛍光特性を簡便に測定し、蛍光減衰波形をもとに糖化度をチェックすることで老化状態を指標化するものである。このような手法を生かした装置の開発自体が医用光学の分野で大きな意味を持つだけでなく、提案手法は皮膚からの情報取得を目標とし、非侵襲であるため診断に対する制約が無く、糖尿病の簡易スクリーニングに利用でき、QOL向上につながる。また、直ちに発展可能な応用では、カテーテルによる、血管内部からの血管壁糖化チェックが考えられる。 さらにSHGと組み合わせてマルチモダール化すれば、光老化、しわ発現、再生医療、皮膚移植・角膜移植を初めとする臓器移植、火傷評価など、コラーゲンが関与するさまざまな医科学研究ならびに医療に寄与できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては予定していた細胞培養用コラーゲンゲルおよび象牙質コラーゲンを糖化させ、液体クロマトグラフィーにより、蛍光性AGEであるペントシジンを抽出することが可能となった。対照ペントシジンには化学合成した試薬を用い、生体より得たものと蛍光比較を行った。ペントシジンの蛍光寿命値はまだ報告されていないので、一連の実験結果を報文としてまとめることができた。 形態学的アプローチとして、象牙質や軟組織内の架橋構造の超微形態学的観察をするための透過型電子顕微鏡用観察試料作成を行った。コラーゲン内の架橋構造の局在には、超薄切片加工とコラーゲン染色技術および超高圧電子線トモグラフィーによる撮影を用いる。また、架橋領域の染色方法としてコラーゲン分子間架橋構造に対してはカテキンを用いたポジティブ染色を用いる予定であったが、カテキンによるコントラストが十分得られなかったため免疫電子顕微鏡法に切り替え、十分な観察が可能となった。コラーゲン線維内でのAGEsの局在を特定するが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
29年度は観察手法の汎用性を考え、小型かつ安価な小出力の半導体紫外レーザーを使い、検出は高感度なフォトンカウント方式を採る。そこでは蛍光に限定して、糖尿病スクリーニングの可能性を探る。 (1)励起パルス光源として小型半導体レーザーを、試料照射部に光ファイバーを用い可動プローブ型AGEチェック装置を試作する。生体への安全性に関しては十分に考慮する。 (2)蛍光情報と生理学的所見との整合性を議論し、糖尿病ラットで血液を用いた実用性の評価を行う。ヒト測定部位は口腔粘膜や歯肉から始める。理由は、口腔粘膜において表層に血管が走行しており光が浸透しやすい点にある。最終的には腕などの皮膚なども対象とする。 (3)バイオメカニクス的考察を含め、糖化が関与する生体変化の総括的な検討を進める
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度においてラットを用いた動物実験の開始時期が1ヶ月ずれ込んだ(ラットを飼育する期間を血糖値の状態から1ヶ月ほど延長したため)ため、その額が次年度使用額として計上されることとなった。実験自体は順調に経緯しており当初の計画には問題ない。
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次年度使用額の使用計画 |
現在飼育しているラットを用いた実験の追実験として、糖尿病に罹患したラットを購入する(3~4万円/匹)予定である。
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