研究課題/領域番号 |
16K12882
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
渡辺 好章 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (60148377)
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研究分担者 |
池川 雅哉 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (60381943)
吉田 憲司 千葉大学, フロンティア医工学センター, 助教 (10572985)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超音波 / 安全性 / DNA / メダカ / 代謝 |
研究実績の概要 |
超音波診断等で多用されている人体への超音波照射の安全性を確認することを目的として、1)生体に直接的に与える影響、2)世代を超えた遺伝的な影響、について、生物学的観点から量的ならびに質的言及を試みることとした。これらの影響を観察する検証対象種としてメダカを用いている。メダカは3カ月での世代交代が行われるために、当該世代における影響の確認を経由しながら世代を超えた影響についても検討することが可能となる。超音波照射の直接的な影響について、まず超音波照射条件を変化させ、卵から発生に至る過程においてメダカ胚が受ける影響について、音圧100kPa、30kHzの超音波照射のduty比を変化させてその影響を直接観測した。その結果、duty比が60%を超えると、孵化しない割合が急激に上昇することが確認され、胚の細胞分裂初期における超音波照射ならびにそれに伴うキャビテ―ションの影響が示唆された。 さらに、生体への影響が世代を超えて、遺伝子やタンパク質レベルで生じる影響について確認するために、「遺伝的発現変化とタンパク質発現変化」、特に「糖代謝関連遺伝子」についての検討を行った。これらの解析手法においては、発現性の再現性の確認が重要となる。このため、個体間の観測対象部位の再現性ならびに同等性を担保するための試料作成手法の確立を目指した。また、この作業と並行して、二次元DNAマイクロアレイ解析、タンパク質レベルでの変化を観測するためのプロテオーム解析およびWestern blotting解析、組織観察を行った。さらに、超音波照射が形態形成に影響を及ぼしているかの観点からの観測も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発生に至る過程において胚が受ける超音波照射の影響についての直接観測は計画通り実施できた。また、遺伝的発現変化とタンパク質発現変化についても観察し、糖代謝関連遺伝子との関連についても検証を試みた。これらの観測においては、関連測定対象試料の着実な作成手法ならびにその評価手法についての検討もほぼ順調に進行いている。ただ、現時点ではまだ試料作成過程に依存したとみられるバラつきも観測されていることから、信頼度の高い評価手法の確立を目指した試料作製の安定化、ならびに試行回数の増加を検討している。また、新たな観測手法として、イメージング質量顕微鏡の適用を検討した。この顕微鏡を用いると、組織内に含まれる目的の生体分子の質量スペクトル中の信号強度を選択的にトレースすることができるため、特定の生体分子の二次元分布像が顕微鏡レベルの分解能で取得可能となる。さらに、本手法を確立できれば、生体分子の臓器内の分布を画像として確認でき、超音波照射に対する生体作用のみならず、さまざまな外部刺激に対する生体反応をミクロレベルで観察することができることから、本装置は本研究計画推進の強力なツールとなることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、メダカの親世代の糖代謝関連遺伝子変異が子世代にどのように及ぶのかの観点からの検討を続ける。すなわち、遺伝子異常が確認された超音波照射条件でメダカを飼育し、次世代のメダカに親の遺伝異常の影響が出ているかを観測結果から考察・検討を行う。これらの観測においては、昨年度に引き続き、イメージング質量分析装置を用いて臓器切片の観察解析を行う。また、この装置の特長を最大限に生かすために、糖代謝以外の影響についても同様にその傾向を確認する。さらに、肝臓との関連臓器との相互依存性の観点からも検討し、多臓器間への遺伝発現の影響についての考察も始める。これらの成果を、超音波診断装置の安全性へ向けた技術的課題を検討する基本的資料へと結びつける。現在の超音波診断手法は高解像度化へ向かっており、そのため照射出力も増加傾向にある。また、この延長上で新たな診断手法も検討されつつあることから、本課題における、生体へ与える超音波照射の安全性についてのより詳しい検討が今後より重要性となると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外での発表予定を今年度へ繰り越した分による差額が主要因。
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次年度使用額の使用計画 |
今年12月に予定されている国際会議にて成果発表を行う予定。
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