本研究の目標は交感神経・血管周皮・血管内皮細胞の複合組織により行われる血圧制御等の血管機能を生体外にて再現した培養モデルを構築することである。近年はヒトiPS等の多能性幹細胞の利用により様々なヒト細胞種を取り扱うことが可能となり、培養細胞モデルによる疾患メカニズム解析研究は広く用いられはじめている。こうした背景に基づき、当該研究者はヒトiPS細胞より交換神経を誘導し、血管組織細胞と結合することで作製する交感神経-血管モデルシステムを構築することを目的とした。 本研究の要となるヒト多能性幹細胞からの自律神経誘導に関しては昨年度までの成果で、自律神経系を構成する交感神経・副交感神経をそれぞれ高効率で作製する技術を開発してきた。一方でこの技術は細胞密度やコストの面で困難な部分も存在したため、培養手法の改良を行い、新たな薬品を添加することで、高密度状態で高コストの薬品無しの条件下での交感神経・副交感神経の選択誘導に資する技術開発を行ってきた。この新技術に関してはデータ解析が済み次第に特許化を検討している。 以上の技術を用いた作製した自律神経細胞とHPA-SMC (ヒト肺動脈平滑筋細胞)との共培養を行い、交感神経作用によるHPA-SMCへの影響を調べた。自律神経との共培養を行ったサンプル、行っていないサンプルとの間でまずファロイジンを用いたアクチン染色を行い、HPA-SMCの細胞骨格への影響に関するデータ取得を行った。これらのデータ解析を終え次第、交感神経作用の血管収縮系への影響に関して学会発表等を行う予定である。また、HPA-SMC以外にも骨格筋細胞であるC2C12細胞に対する交感神経による収縮促進作用についてもデータを得ており、交感神経作用の筋肉系細胞への作用解析について有用なデータを得ることが出来たと考えている。
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