研究課題/領域番号 |
16K12895
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
松村 和明 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (00432328)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ドラッグデリバリーシステム / タンパク質デリバリー / 遺伝子導入 / 免疫療法 / ナノキャリア / 両性電解質高分子 / 凍結濃縮 |
研究実績の概要 |
凍結濃縮法を用いた新規タンパク質の細胞内導入手法の提案を行った。凍結により、氷晶から押し出された溶質は残存溶液中に濃縮され、濃度が高くなる。この現象を凍結濃縮と呼ぶ。凍結濃縮が、細胞懸濁液で起こると、細胞膜周囲に溶質が濃縮される。従ってタンパク質などの細胞内に送達したい物質を、細胞膜親和性のキャリアに担持し、凍結保護剤存在下で凍結するだけで、細胞膜周囲に複合体を濃縮させることが可能である。解凍後には、キャリアが細胞膜に吸着することで拡散よりもエンドサイトーシスが優先的に起こり、細胞内への送達が可能となる。 しかし、エンドサイトーシスで取り込まれた物質は、エンドソーム内で消化されてしまうことから、エンドソームからの脱出が必要である。我々は、両性電解質高分子である、カルボキシル化ポリリジンに疎水基を導入し、リポソームに組み込んだ細胞膜親和性pH応答性リポソームを作成し、タンパク質のキャリアとした。このキャリアはエンドソーム内の低pH環境下で凝集を起こすことでエンドソーム膜の不安定化を引き起こし、エンドソームからの脱出が可能となる。我々は、リゾチームを両性電解質高分子リポソームに担持させ、凍結解凍を行うだけで、細胞膜周囲への吸着量および細胞内への取り込み量、エンドソームからの脱出による細胞質内への移行が有意に向上することを確認した。その後、免疫療法への応用を念頭に、モデル抗原であるオボアルブミンを両性電解質リポソームに担持させ、凍結濃縮によりマクロファージに取り込ませることを行い、抗原提示能の向上、免疫関連サイトカインの放出量の増加などを報告した。 この手法により、血液から採りだした抗原提示細胞に、ガン抗原を効率よく取り込ませることが可能となり、ガン免疫療法としての有効性が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
凍結濃縮による細胞内へのタンパク質リポソーム複合体の導入が予想通り、達成でき、エンドソームエスケープのための工夫である両性電解質被覆リポソームが予想よりも早くうまく機能した。その結果、初年度の早い段階で論文を出版することができた。また、免疫療法応用を見据えた抗原提示細胞への抗原の導入も、既に論文が受理されており、当初の予想よりもかなり早い進展を見せている。現在、遺伝子導入に関しても同様、発現効率の向上が確認されており、論文準備中である。また、詳細な機序および基礎的研究として、凍結濃縮がどの程度起こるか、を定量的に算出する手法を開発中である。その手法を用いると、凍結濃縮度を算出することができる。凍結濃縮度は、既存の凍結保護物質である、ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いたときよりも、我々がこれまで開発してきた高分子系の凍結保護物質を用いたときの方が数倍高いことが示唆されつつある。その機序を調べることにより、凍結濃縮を最適化することが可能となれば、さらなる効率の向上が期待される。さらに、凍結保護物質を使用しない場合、凍結時間・温度を制御することで細胞にダメージを与えないで濃縮を引き起こす、新規の保護物質フリーの手法も開発中である。これにより、保護物質の洗浄操作が不要となり、より簡便な汎用性の高い手法として期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子導入に対して、凍結濃縮法の効果を確認する。具体的には、ポリエチレンイミンをベースとしたナノキャリアに、ルシフェラーゼをコードしたプラスミドを担持させ、DMSOおよび高分子系凍結保護物質の存在下で細胞を凍結させ、解凍後の遺伝子発現を確認する。基礎的検討で、凍結濃縮度を評価しており、DMSOに比べて高分子系凍結保護剤の方が凍結濃縮度が高い結果が得られていることから、効果に関しても差があるかを確かめる。 凍結保護物質を添加しない場合、一般的に細胞は凍結により死滅するが、-3度やー5度といった比較的高い温度で凍結時間が短ければ、細胞内氷晶が形成されず、細胞の死滅が免れる。そのような条件で凍結濃縮を行うことで、凍結保護物質を必要としない手法の開発を検討する。この手法によれば、解凍後に洗浄する必要がないため、さらに簡便かつ汎用性の高い手法として期待できる。現在使用されている遺伝子/タンパク質導入法である、エレクトロポレーション法と比較することで本手法の優位性を評価し、臨床応用の可能性を探る。
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