研究実績の概要 |
本研究は、動物血清に含まれる細胞増殖に関わるタンパク因子群および脂質,有機酸を、浮遊血球系細胞をモデルに同定・プロファイリングし、100%輸入牛胎児血清(FBS)に頼る、現在の細胞培養法の改善を図るものである。平成28年度は、FBSから必須のタンパク質因子群の同定と脂質,有機酸,微量元素,ホルモンの増殖効果を調べ、インスリン,トランスフェリン,亜セレン酸(ITS)とリポタンパク質(LDL, HDL)、組換えアルブミン,脂肪酸などの有効成分からなるプロト型無血清培地を構築することを主な研究実施計画とした。 (1)T細胞株(Jurkat, Molt-4)をモデルに、FBS中の増殖因子群の分析を行ったところ、増殖活性は当初の予測に反し、40-55%硫安画分(主な血清タンパク質はフェツイン)と55-80%硫安画分(主な血清タンパク質はアルブミン)に見出され、アルブミンに結合している脂質が増殖に必須であることも予想された。増殖因子については分離/精製を進めているが、現在のまでにフェツイン、アルブミンとの分離ができていない。この増殖因子は還元アルキル化、95℃の過熱、変性剤である6Mグアニジン塩酸塩などにも安定であることから低分子のペプチド性のものと予測された。(2)有機酸の中では基礎培地に添加されることの多い、ピルビン酸が無血清/低血清の場合に高い増殖促進効果を持つことがわかった。(3)脂肪酸の中ではオレイン酸が効果的で、必須脂肪酸であるαリノレン酸,リノール酸では効果より高濃度での毒性が顕著であった。微量元素については亜セレン酸以外では顕著な効果は認められなかった。(4)ホルモンについては検討できなかったが、本年度の研究成果から、ITSと組換えアルブミンあるいはBSAにコンジュゲートしたオレイン酸を含む脂肪酸、ピルビン酸からなるプロト型無血清培地のコンセプトが固まったと判断している。
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