研究課題/領域番号 |
16K12898
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
城崎 由紀 九州工業大学, 若手研究者フロンティア研究アカデミー, 准教授 (40533956)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人工靭帯 / キトサン / 有機-無機複合体 / ファイバー / 骨結合性 |
研究実績の概要 |
前十字靱帯(ACL)再建手術に代表される骨に軟組織を結合させる再建手術では,自身の体から採取した靱帯を移植する治療が普及しているが,健康な組織を犠牲にするという問題がある。一方で,人工靱帯を使用する場合では,採取した靱帯の両端に合成高分子からなる繊維を設置しこれを移植する。この方法では,組織の犠牲を減らすことができるが,骨との結合性がなく,高分子の経年劣化により摘出・交換を要する。 本研究では骨と結合し,細胞の足場材料となり靱帯組織の再生を促した後に生体内で分解・吸収される人工靱帯の開発を目的とする。細胞との親和性と生体分解性,骨結合能を持つファイバーの材料としてキトサンと水酸アパタイト(HAp)に着目した。キトサンは甲殻類の殻の主成分であるキチンを脱アセチル化した高分子であり,細胞親和性と生体分解性に優れている。HApは骨に含まれているリン酸カルシウムの一種であり骨結合能を有する。本研究では,キトサン-HAp複合ファイバーを凝固法により作製し,乾燥・湿潤状態での機械的特性の評価を行い,HAp複合による機械的特性の向上を目指した。また,キトサン分子内に形成したHApのサイズや形状などの微細構造,延伸操作の機械的特性への影響,分解特性などを明らかにする。さらに擬似体液(SBF)を用いて,生体内での骨結合特性も評価した。 出発原料のキトサン溶液内へリン酸を含有させておくことにより,生体骨と大きさがほぼ等しいHAp粒子をファイバー内に均一に析出させることに成功した。また,延伸速度により引っ張り強度を向上させ,長繊維(5 m)も得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キトサン内のリン酸含有量,湿潤ファイバーの延伸条件,乾燥条件を種々変化させ,モノファイバーの引っ張り強度の向上,3次元化の為の長繊維化を目指した。 各操作後のファイバーのXRD測定結果より,水酸化ナトリウム水溶液浸漬後にキトサンの結晶性の向上とHApの形成が認められた。TEM像からファイバーの長軸方向に配向したHAp粒子が観察され,その大きさは,長軸方向に50.7±9.7 nm,幅20.5±6.1 nmであることが分かった。これは,生体骨に含まれる水酸アパタイト(長さ約50 nm,幅約20 nm))の粒子と大きさと形状が類似しており,本ファイバーは生体骨との結合が期待される。引っ張り強度は,延伸速度が30 / 45 (rpm)の場合で最大となった。また,リン酸二水素ナトリウム濃度が大きくなるとHApのピーク強度も増加した。加えてTG-DTA測定結果からも無機成分が増加したことから,リン酸二水素ナトリウム濃度が増加するにつれてHApの生成量が増加することが分かった。引っ張り強度は,リン酸二水素ナトリウム濃度が0.00 ~ 0.03 Mにかけて増加し,0.04 Mで急激に減少した。膨潤率は,全試料において浸漬時間40分以降からほぼ一定となり,HApを複合させることにより,ファイバーの膨潤は抑制された。さらに,膨潤条件下ではHApを複合したファイバーすると最大応力が増加した。生分解性試験では,キトサンのみの試料で9週後の重量減少率が15%程度であったのに対し,HApを複合したファイバーはいずれも10%程度であった。SBF浸漬実験ではリン酸二水素ナトリウムを加えていない試料ではHApの形成が見られなかったが,リン酸二水素ナトリウムを加えた試料ではHApの成長が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に単繊維の高強度化および長繊維化を目指し最適化を進めた。現在5 m強の繊維を得ることに成功しているが,3次元化には最低10 mの繊維が必要である。一方,現単ファイバーは湿潤時に大きく膨潤する為,機械的強度が急激に低下する。そこで,H29年度は,シランカップリング処理を施し,単ファイバーのさらなる高強度化を図る。高強度化した 単ファイバーを用いて,3次元化を試み,得られたマルチファイバーの機械的特性および細胞適合性を明らかにする。
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