研究課題/領域番号 |
16K12900
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
東 昌市 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 教授 (10275076)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | がん転移 / マトリックスメタロプロテアーゼ / MMP-7 / HAI-1 / 細胞間接着 / 細胞凝集 |
研究実績の概要 |
これまでの研究から大腸がんの肝転移に深く関わるMMP-7がコレステロール硫酸を介してがん細胞表層に結合し、細胞表層タンパク質を切断することでがん細胞の細胞間接着能を高め、細胞凝集を誘導するとともに、その肝臓への転移能を著しく促進することを見出していた。また、MMP-7によって切断されるがん細胞表層のタンパク質としてI型膜タンパク質であるHAI-1(hepatocyte growth factor activator inhibitor type 1)を同定した。 そこで本年度はまずHAI-1の切断に伴い、どのようにして、がん細胞の細胞凝集が誘導されるのかについて調べた。その結果、MMP-7によって切り出されたHAI-1の細胞外領域(sHAI-1)が細胞表層に結合し、細胞凝集を誘導することを明らかにした。また、sHAI-1のがん細胞表層への結合と細胞凝集誘導は二価金属イオン依存的であり、細胞をMMP-7処理することが必須であることが判明した。さらに、細胞凝集に関わるHAI-1分子内領域がセリンプロテアーゼインヒビター領域を含まない141-249に相当するアミノ酸配列中に存在することを同定した。 HAI-1の141-249に相当する断片の中の幾つかのアミノ酸残基をアラニン残基に置換した種々のバリアントを作製したところ、細胞凝集誘導活性を失ったものが得られた。また、大腸がん細胞をMMP-7処理する際に、このHAI-1断片の誘導体を添加したところ、MMP-7が誘導する細胞凝集を効果的に抑制することが判明した。したがって、こうしたHAI-1断片の誘導体はMMP-7の酵素活性そのものには影響を与えないものの、MMP-7よるがん転移促進効果を選択的に抑制する薬剤として利用できる可能性があると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画以上に進展した点と、やや遅れた点があったため、おおむね順調に進展しているとした。計画以上に進展した点は研究実績の概要で述べた通り、HAI-1分子内の細胞凝集誘導活性に関わる領域をアミノ酸残基レベルまで詰めるとともに、がん細胞の細胞凝集を効果的に抑制する分子の設計に成功したことであり、これががん転移抑制剤として応用できる可能性が見出された点である。やや遅れた点はHAI-1が誘導する初期の細胞凝集から強固なE-カドヘリン依存的細胞凝集への移行する分子機序の解明であるが、こちらについても種々のプローブ作りが進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、HAI-1誘導体をがん転移抑制剤として応用するための分子設計を進めるとともに、動物実験等によりその効果を検証することを計画している。また、HAI-1が誘導する初期の細胞凝集からE-カドヘリン依存的細胞凝集への移行する分子機序の解明を進めるとともに、こうしたMMP-7による細胞間接着誘導効果を肝幹・前駆細胞の生着への応用に着手することを計画している
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、平成28年度に研究室の学内移転があり、移転の前後の期間において研究および試薬等の購入を停止せざるを得なかったことがあげられる
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次年度使用額の使用計画 |
使用計画としては購入が遅れた試薬等を早期に購入し、研究の推進に充てる予定である。
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