昨年度までの研究において、MMP-7とコレステロール硫酸との相互作用に伴い、がん細胞表層のI型膜タンパク質であるHAI-1がMMP-7によって切断され、その細胞外領域が放出されることを見出した。また、HAI-1細胞外領域に細胞凝集を誘導する活性があることを明らかにした。さらに、HAI-1細胞外領域のうち、PKD (Polycystic kidney disease)ドメインを含むアミノ酸配列141-249に相当する部分に細胞凝集誘導活性が存在することを見出した。 本年度はHAI-1細胞外領域の141-249部分を含む断片、HAI-1(141-249)の種々のバリアント分子を作製し、細胞凝集誘導に関わる機能部位を最小単位まで詰めることを試みた。その結果、HAI-1(141-249)内の数アミノ酸残基をアラニンに置換すると、がん細胞への結合能は保持されているものの、細胞凝集誘導活性を失うことを見出した。また、この断片を培養がん細胞に添加すると、MMP-7が誘導する細胞凝集が有意に抑制されることが判明し、HAI-1(141-249)のバリアントがアンタゴニストとして機能することが示唆された。さらに、細胞凝集誘導活性に重要なアミノ酸残基の周辺配列を含むオリゴペプチドが、同様にMMP-7が誘導する細胞凝集に対して抑制効果を持つことが判明した。これらの結果はHAI-1(141-249)の中に2つの機能部位が存在し、その両方が揃ってはじめて細胞凝集誘導活性を持つことを示唆している。その機序としてそれぞれの機能部位が細胞表層分子と相互作用し、細胞間を架橋することで細胞凝集を誘導すること等が考えられる。そのメカニズム解明には更なる解析が必要であるが、上記の細胞凝集阻害活性を持つHAI-1(141-249)バリアントおよびオリゴペプチドは新規がん転移抑制剤としての開発が期待される。
|