生体材料に単なる細胞接着性を付与するだけでなく、細胞成長や分化のような高次な機能を制御できるような機能を付与するために、細胞成長因子を固定化することで可能になることを示し、固定化により細胞成長因子が細胞内に取り込まれずに長期間に亘り、細胞を刺激できることを25年近くにわたり明らかにしてきた。これは、生体材料学の基本原理の一つとして認知されるようになってきた。本研究では、この原理を広く無機材料へも展開した。無機材料は骨、関節、歯などの硬組織の代替材料として広く利用されているにも拘わらず、積極的な生体機能性、ましてや細胞成長や分化などを制御することは困難であった。この挑戦的課題を解決することにより、新しい生体材料学の研究領域を開拓することを目指した。 通常の遺伝子組み換え法では導入できない水中接着タンパク質の活性に寄与する非天然アミノ酸3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)をタンパク質に導入できるようにし、その結合性評価と細胞成長促進活性評価を行った。酵素法には、ペプチド間やタンパク質間を連結できる酵素ソルターゼを用いて、遺伝子組み換えタンパク質と合成ペプチドを連結させる方法と、チロシン残基を水酸化してDOPAにできる酵素チロシナーゼを用いる方法を試した。後者は、手法としては簡便であるものの、チロシナーゼ処理によって成長因子部分のチロシンがDOPAになり、活性が低下する懸念があるため、成長因子により、その効果を見極めながら、調製を進めた。前者の方法においても、連結前後でコンフォメーション変化が生じ、活性が低下することがあるため、スペーサーの導入や、結合性を付与するために導入するペプチド配列やその長さと、結合性について検討し、金属やセラミクスに結合した成長因子の活性を細胞培養によって評価した。
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