研究課題/領域番号 |
16K12905
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
山岡 哲二 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (50243126)
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研究分担者 |
馬原 淳 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 研究員 (80416221)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞・細胞工学材料 |
研究実績の概要 |
心臓全体を脱細胞処理して、心筋細胞で再細胞化するというアイデアは2012年頃から国内外で検討されているが、心筋細胞を心室・心房内に播種するなど、その3D配置のコントロールは容易ではなく、また、冠動脈に血液を流せば、たちまち血栓性塞栓につながることは明らかである。このような培養系における検討と、機能を有する心臓との最大の相違は、血液が循環できる冠動脈網が再構築されていないことである。バイオリアクターを用いたり、ゲル中で管腔を作製したり、3Dプリンターを使用するような試みも報告されているが、これを解決できる戦略とは言えない。 本研究は、脱細胞化技術により、コラーゲン・エラスチンなどの構造タンパク質の変性を抑制し、かつ複雑な心冠動脈網構造を維持した、脱細胞化スキャホールドを作製することを目的とする。独自に開発した超早期再内皮化技術によって、血流を保持できる心冠動脈組織の再構築に挑戦する。我々は、世界で始めて、直径2mm長さ30cmの脱細胞化小口径人工血管に対してin vivoにおいて3日で内膜再構築に成功した。この技術を応用して、心臓全体を脱細胞した後に、心冠動脈内腔に内皮化誘導処理を施して再生型心冠動脈網の再構築に挑戦した。ブタおよびラット心臓を還流することで脱細胞化心臓を得た。冠動脈に対してペプチド溶液を注入し、60℃で1時間インキュベートした。その後、蛍光標識した血管内皮細胞を冠動脈へ注入し静置培養した。播種後の細胞性着を共焦点顕微鏡、HE染色、電子顕微鏡により評価したところ、細胞播種1ヶ月後においても胞が生着している様子を認め、冠動脈内腔の内膜親和性は達成されていることが確認された。まだまだ、心尖部側への細胞播種は困難であり、条件の最適化を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラット、ウサギ、ミニブタの心臓を脱細胞化し、冠動脈構造を具備した脱細胞化心臓を得た。ラットやウサギの心臓は心臓壁圧も薄いことからその脱細胞化は容易で有り、ECM変成が抑制できる超高圧処理により脱細胞化が可能であった。しかしながら、冠動脈構造が小さすぎることからその後の実験が容易ではなかったことから、ヒトに近いサイズのミニブタ心臓を用いて実験を進めた。ミニブタ心臓では組織が厚いために、脱細胞処理に長時間かかることから、今回の実験では、SDS処理によル脱細胞化を実施した。SDS処理ではタンパク質の変性が強いと考えられるが、本実験で最も重要な細胞播種と正着を検討するために、この手法を選んだ。結果として、移植細胞の正着の確認にも成功している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においても、ミニブタ全心臓脱細胞手法としては超高圧処理とSDS処理を併用で進める。また、冠動脈内腔の内腔の処理方法は、同様に以下の手法に従う。コラーゲン分子に親和性を有する(Pro-Hyp-Gly)7回繰り返し配列とREDV配列を有するオリゴペプチド「POG7GGGREDV」を、定法のFmoc固相合成法により作成する。その対象配列として、コラーゲン結合部位の不活性配列「OPG7GGGREDV」、繰り返し配列回数が3回の「POG3GGGREDV」、REDV部分の不活性配列「POG7GGGREVD」、および配列のミュータントなどの4種類のコントロール配列を検討する。脱細胞処理心臓を、これらのオリゴペプチド溶液に浸漬して60分間処理する(初年度の予備的検討から処理温度は60℃から25℃に変更する計画である)処理する。ここに、血管内皮細胞あるいは血管内皮前駆細胞を播種し、in vitroにおいて環流培養することで、細胞の正着と冠動脈構造の構築の可否を検討する。 全血を用いた内皮化確認実験としては、グループ内で内径0.5mmの脱細胞血管移植モデルが構築されていることに基づき、ラット脱細胞心臓とラットEPC細胞の組合せを実施する。脱細胞後に冠動脈内腔を処理し、ラットEPC細胞(あるいはヘパリン化ラット全血)を環流することで内膜誘導を施し、再生内膜を組織学的に検討する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ミニブタ心臓の脱細胞処理が予想外に困難であり、超高圧処理だけでなく界面活性剤SDS処理により脱細胞することとなった。そのために、内皮細胞およびEPC細胞の播種実験の例数が計画より少なくなり次年度に継続することとしたために、この予算を次年度使用とした。
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次年度使用額の使用計画 |
ミニブタ血管内皮前駆細胞の調製は困難であることから、脱細胞化ミニブタ心臓冠動脈に対するin vitroの細胞播種実験にはラット細胞を用いる。 F344ラット(4週齢、♂)にG-CSF(200 µg/kg/day, Kirin Pharma)を5日間皮下投与して骨髄由来間葉系幹細胞の流動化を誘導した後、その大腿骨および頸骨から骨髄を洗い流す。CD34およびFLK-1陽性骨髄由来間葉系幹細胞の単離は、抗CD34および抗FLK-1抗体がコートされた磁気ビーズを用い。得られた細胞は十分に増殖させた後に実験に用いる。
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