末期心不全に対する心臓移植は現在の最良の治療法であるが、臓器提供者数不足や拒絶反応の問題などの課題も多い。近年、脱細胞心臓組織に細胞を播種して in vitro で立体的な臓器を再生させる研究が進められているが、立体組織の再構築は技術的に多くの問題が指摘されている。まず、大きな組織を再構築するには血管網の構築が必須である。しかし、脱細胞心臓の冠動脈に血液を流せば、たちまち血栓性塞栓が起こる。我々のグループでは、脱細胞人工血管の内腔に対して内皮化誘導ペプチドを固定化することで、in vivoにおいて内皮系前駆細胞を捕捉することに成功したことから、この技術を、脱細胞化組織の冠動脈内腔修飾に応用すれば、組織全体に血液を送達できる可能性がある。 ミニブタおよびラット心臓を還流することで脱細胞化心臓を得た。冠動脈に対してペプチド溶液を注入し、60℃で1時間インキュベートした。その後、蛍光標識した血管内皮細胞を冠動脈へ注入し静置培養した。播種後の細胞性着を共焦点顕微鏡、HE染色、電子顕微鏡により評価した。細胞播種1ヶ月後において蛍光顕微鏡により内腔を観察した結果、基部に近い冠動脈内腔付近に細胞が生着している様子を認めた。HE染色でも内腔表面に細胞層が形成されている様子が示された。しかし、心尖部側の冠動脈には細胞が見られなかった。本法により血管内皮細胞を冠動脈へ生着させることができた。心尖部側も含めて均一に播種するためには、リガンド固定化の民ではなく、条件を最適化した灌流培養との併用が有効である。
|