研究課題/領域番号 |
16K12910
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小栗 慶之 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (90160829)
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研究分担者 |
羽倉 尚人 東京都市大学, 工学部, 助教 (00710419)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 浸潤性ガン治療 / 低侵襲治療 / 抗ガン剤 / 単色X線 / X線吸収端 / 陽子線 / 静電加速器 / 注射針 |
研究実績の概要 |
模擬抗ガン剤前駆物質を照射して模擬抗ガン剤分子を生成し,機器分析手法によりオフラインでそれらを検出・同定するのに必要な単色X線の線量を確保するため,注射針型陽子線励起単色X線源の強度の増強を試みた.そのために,まず注射針側面のX線取り出し部を外側からサンドペーパーにより研磨し,壁厚を極限まで減少させてX線の透過率を向上することを試みた. 一方,注射針内壁への衝突による損失を防いで陽子線を注射針先端の金属標的まで効率良く輸送し,X線の強度と出力安定性を向上するための具体的方法を再検討した.このためにタンデム静電加速器から注射針の先端までの陽子線の輸送・集束,及び金属標的からの特性X線の発生,注射針壁の透過,外部への取り出し全体について,モンテカルロシミュレーションコードによる詳細なビーム光学的計算と陽子線・標的相互作用の計算を行った.これを加速器系の運転の最適化のための指標として用い,実際に標的まで陽子線を通し,液体シンチレーターと電子増倍型超高感度CCDカメラを用いて標的から放出されるX線の強度の角度分布測定を行ったところ,計算結果とほぼ一致する結果を得た. 以上と並行して,一次陽子線の供給源である横引出しPIG型水素負イオン源の出力を向上させるため,イオン源内部に軌道補正用永久磁石を設置する等の改良について,詳細設計と関連機器の試作を行った.さらに,模擬抗ガン剤前駆物質中で単色X線の吸収材として働く金属元素の種類と濃度,それを含む化合物の化学的安定性・安全性,水への可溶性等も考慮して最適な模擬抗ガン剤前駆物質を選定した.また実験用真空容器の概念設計,及び模擬抗ガン剤分子の検出・同定に最適な機器分析法に関する調査検討も行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
注射針型陽子線励起単色X線源の側面外周を一様に研磨して針の厚みを減少させ,外部へのX線の透過率を向上させる予定であったが,針を破損せずに一様に数十ミクロンの厚さに加工することが技術的に非常に困難であった. 一方,計算機シミュレーションの結果に基づき静電加速器及び陽子ビーム輸送・集束系の運転条件を設定して実験を行ったが,実際の陽子線のビーム挙動は計算結果と完全には一致せず,金属標的上での一次陽子線ビーム強度及び発生する単色X線の強度に大幅な改善が見られなかった.また,加速器のマシンタイム期間中,加速管の絶縁不良等により所定の加速電圧に到達することが困難で,しかも加速電圧が不安定のため標的上でビーム位置,ビーム強度の変動が見られた. これらの理由により,単色X線照射により模擬抗ガン剤前駆物質中に発生する反応生成物を検出・同定するために必要なX線照射量を実現することができず,年度内に予定していた模擬抗ガン剤前駆物質とその照射実験の準備を含む研究計画を達成できなかった.
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今後の研究の推進方策 |
上記「現在までの進捗状況」の通り,これ以上の一次単色X線強度の向上は困難と判断されるため,研究計画の終盤であることも考慮して,X線発生用の金属標的をより高出力のKX線を発生できる原子番号30程度までの比較的軽い元素に変更する.その金属元素の単体や適当な化合物が入手できない場合は,原子番号70-80程度の重元素のLX線を用いることも検討する. また,より高強度の一次陽子線を金属標的に照射し,かつ標的を効率的に冷却するため,当初より予定していた注射針型X線源の使用は取りやめ,新たに真空容器の中心に金属標的を置き,そこに陽子線を直接照射する単純な方式に変更する.X線はプラスチック薄膜製の真空窓を介して大気中に取り出し,大気中に置いた模擬抗ガン剤前駆物質を含む溶液試料を照射する.模擬抗ガン剤前駆物質としてグルコン酸亜鉛等,亜鉛(Zn,K吸収端エネルギー = 9.66 keV)を含む水溶性の有機物を使用する.金属標的としては,ZnのK吸収端エネルギーよりわずかに高いエネルギーのKX線を発生するゲルマニウム(Ge,KX線エネルギー = 9.87 keV)やLX線を発生するタングステン(W,LX線エネルギー = 9.67 keV)等の使用を検討する. X線発生用金属標的の種類を変えて一次X線エネルギーを変化させ,機器分析により模擬抗ガン剤としての反応生成物の発生量の変化を調べ,ガン細胞の内部のみで選択的に抗ガン剤を合成する新しい低侵襲治療法の原理的実証を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
模擬抗ガン剤前駆物質中に発生する反応生成物の測定に必要なX線量が得られず,年度内に予定していた照射実験の準備及び測定に至らなかったため,次年度使用額が発生した. 次年度は,まずより高出力のKX線を発生できる比較的原子番号が小さい金属元素の単体,あるいはその安定な化合物標的の購入に当該予算額を充てる,なお,安定な単体・化合物が存在しない場合は,原子番号70-80程度の重金属元素を用い,KX線の代わりにLX線を用いる.また,陽子線照射により真空容器内の金属標的から発生する特性X線を大気中に取り出すためのプラスチック薄膜真空窓,そのX線により照射される模擬抗ガン剤前駆物質としてのグルコン酸亜鉛等,高純度試薬を購入する.その他,陽子線を発生する静電加速器の運転に必要な高圧ガス,高電圧絶縁材料,同軸ケーブル等の消耗品を購入する.
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