前年度までに,予定していた一次準単色X線強度が得られなかったため,引き続き静電加速器及び陽子線輸送・集束系の改良と最適化を試みたが,イオン源出力を予定通りに向上させることができず,結局予定の実験に必要な一次準単色X線強度は得られなかった.そこX線発生・照射装置をさらに改造して試料とX線発生用金属標的を近づけ,より高いX線強度を得られるようにした.これにより線量率は数倍に上昇した.厚さ50ミクロンのマイラー製真空窓を介してX線を大気中に取り出し,試料に照射した.試料を透過したX線のエネルギースペクトル及び絶対強度をCd-Te半導体検出器で測定し,試料の受ける吸収線量を推定した.予備実験として,まずグルコン酸亜鉛(亜鉛のK吸収端エネルギー = 9.66 keV)水溶液試料にコバルト60線源からの高線量のガンマ線を照射した後,高速液体クロマトグラフィー分析装置で測定したところ,一部が分解されていることが確認できた.この結果を受け,金(LαX線エネルギー = 9.71 keV)及び銅(KαX線エネルギー = 8.04 keV))標的を用いて発生したエネルギーの異なる準単色X線を用いて同様にグルコン酸亜鉛水溶液試料を照射した.これらの照射後試料を同様に高速液体クロマトグラフィー分析したところ,同じ線量であっても分解生成物の収量比に違いがあることを確認できた.しかし,これらの生成物の同定はできなかった.これらの結果より,体内に導入された無害の重元素含有前駆物質を原料として,ガン細胞の内部で単色X線照射により選択的に抗ガン剤を合成する低侵襲治療法が原理的に可能であることが分かった.
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