研究課題/領域番号 |
16K12919
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研究機関 | 富山県工業技術センター |
研究代表者 |
寺田 堂彦 富山県工業技術センター, その他部局等, 研究員 (10454555)
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研究分担者 |
大永 崇 富山県工業技術センター, その他部局等, 副主幹研究員 (10416133)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 血中循環腫瘍細胞 / ナノファイバー |
研究実績の概要 |
血中循環腫瘍細胞(CTC)は、癌の転移、拡大において重要な役を担っていることが広く認識されている。また、5mm以下の初期がんからもCTCは発生するため、わずかな血液から高い確率でCTCを捕捉して、低侵襲な採血により癌を早期発見することが期待されている。CTCを捕捉回収するシステムは、現状では腫瘍細胞の上皮細胞接着分子(EpCAM)に対する抗体を利用して捕捉する方法が主流である。しかし、EpCAM発現が低いCTCの捕捉確率は極端に低下することが予想される。そのため、CTC診断の信頼性を高めるためには、血液中にわずかな個数しか含まれていないCTCを、膨大な数の血球細胞の中から高確率で捕捉するシステムの開発が必要である。本研究では、抗体を固定化したナノファイバーをフィルターとして、血液をろ過することにより、従来法より各段に高いCTC捕捉確立をもつシステムの開発することを目的としている。 初年度である本年度は、ナノファイバーの材料選定を行い、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を素材として、比較的均質なファイバー(平均径113 nm、標準偏差24 nm、n=30)を作製することに成功した。一方、ナノファイバーは一般的に細胞接着を促進することが知られているため、白血球、リンパ球といった血球細胞がフィルターに接着することを抑制するためは、ナノファイバーの表面に血液親和性を付与し、非特異的な細胞接着を抑制する必要がある。そこで、血液親和性を有するポリマーであるポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)を重合し、PMEAによるPVDF表面のコートの可否について、接触角測定による評価を実施した。その結果、PVDF表面をPMEAによりコートすることが可能であることを示唆するデータを得た。これにより、血球細胞の非特異的な接着を抑制したナノファイバーフィルターを作製できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施計画よりも多少の遅延が発生している。当初の予定では、血液適合性を有する素材、すなわち、血球細胞が接着し難い材料でナノファイバーを作製することを計画していた。しかしながら、血液適合性を有すると一般的に認識されているポリマーは、ガラス転移温度が比較的高いものが多く、そのポリマーを単体でナノファイバー化することが難しい場合が多い。また、仮にナノファイバー化を達成したとしても、ガラス転移温度の高いポリマーの形態を、通常環境で長期間維持することは難しく、かつ、血球細胞を含む液体をろ過する際の流体抵抗に、十分に抗するだけの強度を付与できるか否かも大きな課題となることが判明した。そこで、直径100 nm程度の極めて細い繊維形態であっても、十分な強度を持ちうる材料でナノファイバーを作製した後、その表面を血液適合性材料で覆うことを試みた。一方、このような場合、ファイバーを作製するための材料とコーテイングするための材料との親和性(濡れ性)が問題となるため、この点を考慮して材料選定を行い、PVDFとPMEAとの組み合わせにより達成できる可能性を示唆する結果を得ることができた。現在、PMEAの分子鎖末端に、CTCを捕捉するための抗体を固定化する官能基を導入する実験を進めており、この課題をクリヤーすることができれば、研究実施計画に対する遅延を挽回できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方針には変更はない。上記のとおり、ナノファイバーフィルターの構造を見直している途中ではあるが、研究目的と期間中の達成目標とに変更はなく、従来法では十分な捕捉確立を確保できないようなCTCを、高確率で捕捉することが可能なナノファイバーフィルターの開発を目指す。他方、血球細胞や血小板といった血液成分の接着は、完全に抑制しなければならないわけではなく、ろ過の過程の短時間においてのみ、ある程度の抑制効果を付与することができれば、おそらくは本課題の目標は達成できると考えられる。そのため、静的条件で血球細胞の接着を抑制するような血液適合性能を、ナノファイバーに付与することを目指すのではなく、ろ過過程での動的条件において血球細胞の接着を抑制するためには、どの程度の血液適合性能が必要なのかを見極めなければならない。この点に関して、必要性能がそれほど高くないのであれば、ナノファイバー自体を開発することのハードルは大きく下がるため、現在発生している遅延は挽回可能であると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
銀行振り込み手数料等の、「その他の直接経費」としての使用を目的として、意図的に確保した費用であり、結果的にその余剰分が残ったものである。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度の「その他の直接経費」として使用する予定である。
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