研究課題/領域番号 |
16K12923
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
丸山 修 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (30358064)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メカニカルストレス / 血液 / 血栓 / 血液凝固因子 / せん断速度 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、せん断応力に対する「血液凝固」に関する因子について研究を進めたが、平成29年度は、せん断応力に対する「出血」に関する因子について焦点を当てた。試験検体としてクエン酸ナトリウムを主成分とする抗凝固剤で抗凝固したヒト血液(日赤提供の献血血液、全血)、およびヒト血液を遠心分離したヒト血漿を使用した。これらのヒト血液試料を使用した実験は、産業技術総合研究所生命倫理委員会の承認を得て行った。メカニカルストレス、すなわちせん断応力を血液および血漿に負荷する方法として、新規に製作したせん断負荷装置である内筒回転式二重円筒型レオメータを使用した。試験血液3.6 mLをせん断負荷部に注入し、せん断速10,000 s-1~60,000s-1で30秒間、37℃でせん断負荷を加えた。その結果、全血でも血漿でも、せん断速度の増加に伴って、出血に係る血液凝固因子であるフォンビル・ブランド因子(vWF)高分子マルチマーが分解されることが定量的に見いだされた。粘度で補正したせん断応力に基づくvWF高分子マルチマーの分解量、すなわち保存率は、全血と血漿でほぼ同量であることがわかった。また、血液型に依存する傾向は見られなかったが、健常者であっても、vWF保存率は大きく異なることがわかった。これらのことから、臨床検査の観点では、全血でなく血漿状態でもせん断応力に対するvWF保存率を計測することができ、人工心臓や体外循環ポンプのようなせん断応力を発生する循環器系デバイスの装着に先立ち、患者の保存血漿を用いて、デバイスに対する出血耐性を事前評価することが可能であると期待できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りの成果を得られたと考えている。平成28年度は、血液凝固反応抑制において、メカニカルストレス、すなわちせん断応力による血小板凝集反応を介さない「凝固系反応」の抑制における定量評価を行った。血液凝固第5因子が、せん断応力によって構造変化を起こすことに起因するものと考えている。この反応は非常にユニークであり、今後も反応メカニズムの詳細を明確化していく必要があるが、一方でせん断応力による血液凝固反応抑制過多、すなわち出血現象に係るメカニズムについてもその定量評価が求められている。これまで臨床現場では、経験的にせん断応力が負荷されるデバイスを装着した患者においては、出血合併症を併発することがしばしば見られたが、どの程度のせん断応力を負荷した時に、どの程度のvWFが破壊せずに保存されるかについては、明らかでなかった。vWFの保存率に基づく出血、すなわち血液凝固反応抑制は、血小板凝集を介する反応である。したがって、本研究をさらに進めることにより、同一せん断応力に対して、何%血小板凝集に関与し、何%血小板凝集系以外の反応に関与するか等、メカニカルストレスに基づく血液凝固反応の反応カスケードごとのマッピングを確立することに期待できる。また、それぞれがお互いにどの程度影響するのかを調べることも重要であると考えている。一方で、この基礎研究成果を臨床現場にどのように反映させるかを考えていく必要がある。すなわち、どの程度のせん断応力をどの程度負荷したら、すなわち血液ポンプを装着して、何回転でどのくらいの時間が経過したら、血液凝固をどのくらい抑えられるか、一方でどの程度の出血リスクが生じるのかを、予測する定量評価が求められる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度および29年度の成果によって、ヒト血液においては、血漿に溶解しているタンパク質である血液凝固因子が、せん断応力によって構造変化、あるいは構造変を介して酵素分解することにより反応物質が消失、あるいは反応に寄与できなくなることで血液凝固反応が抑制されることがわかった。また、そのせん断応力の大きさに伴って、抑制量は増大することがわかった。最終年度である平成30年度は、血小板系を介する系と介さない系とで、全体としてせん断応力に対して、定量的にどの程度血液凝固反応に寄与しているかを明確化することが求められる。さらに、ヒト血液だけでなく、ウシ、ブタおよびヤギ血液を使用した実験へと展開し、動物実験で評価するせん断応力を発生する人工心臓や体外循環ポンプなどの循環器系人工臓器の評価基準とする必要がある。すなわち、動物実験で得られた血液凝固特性のみで評価するのではなく、ヒト血との関連性を明らかにし、「動物実験の結果はこうであったが、ヒト血、すなわち臨床ではこのような結果になることが予想される。」ということを提唱し、本研究を完成させる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
メカニカルストレスを負荷した血液および血漿について、予定していた実験は年度内にほぼ終了したが、せん断応力に対する再現性を確認する必要が一部生じた。そのため、平成30年度初頭に実験を追加した。 (使用計画)実験に必要な試薬、物品を発注し、直ちに追加実験を実施する。全体の研究計画に大きな遅延は存在しない。
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