令和元年度の研究実績として、平成29年度に実施した「ヒト血液を使用した フォンビル・ブランド因子」の研究について、国際誌投稿に向けて準備を行った。血液ポンプ内と同レベルのメカニカルストレス、すなわちせん断応力をかけることにより、同じせん断応力をかけた場合でも、出血に係る重要なタンパクであるフォンビル・ブランド因子の残存量が異なることが定量的に明らかとした。これは、臨床現場で、同じ人工心臓(血液ポンプ)を適用し、同じ条件で運転しても、患者によって残存量が異なり、すなわち患者によって、出血したり出血しなかったりという事象を実験的に証明することができた。現段階では、人工心臓を適用する患者の血液にメカニカルストレスを負荷し、フォンビル・ブランド因子の残存量を定量することで、その患者がどのタイプの人工心臓に耐えうるか(せん断応力は小さいが大型で生体適合性があまりよくないタイプ、あるいはせん断応力はやや大きくなるが小型で生体適合性が高い)を事前判断することができる。この画期的な成果は、「なぜ、患者によって差が出てしまうのか」についての研究に発展することが可能であり、近い将来、簡易的な検査で人工心臓適応患者の出血に関する安全性を飛躍的に向上することに期待できる。この成果は、現在、多くの心臓血管外科医が読む国際誌に投稿準備中である(一度、臨床系の国際誌に投稿したが不採択で、人工臓器系の国際誌に再投稿準備中)。 平成30年度から令和元年度は、所属機関内の異動によって研究現場から離れ、事務職業務の担当となってしまい、想定した研究を十分に実施することができなかった。「出血」に関しては、上記の通り画期的な成果を得たが、メカニカルストレスに伴う「血栓形成」に関するリスクについては、この研究を発展させるための新たな研究計画の中で、きちんと明らかにしていきたい。
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