研究実績の概要 |
本研究の目的は、高次脳機能障害を持つ方を対象に、ドライブレコーダー(DR)を搭載した自動車で路上運転を実施し、DRのジャイロセンサーが感知した危険挙動記録(急加速・急ブレーキ・急回旋など)とDRに同期した運転映像記録を基に、運転行動の特徴を分析し、自動車運転の可否判断に寄与する実車運転の評価項目(評価表)の開発とその信頼性と妥当性を検討することである。2019年度は2018年度までに取得した、高次脳機能障害者と自動車教習所指導員各26名分の路上運転の映像記録と、DRのイベント記録を基に分析を行った。26名の高次脳機能障害者でジャイロセンサーが感知した危険イベントは8名中合計12件で、その内訳は①急ブレーキ7件、②急カーブ4件、③急加速1件であった。危険イベントが最も多く生じた道路環境は信号機のある交差点での左折時(5件)で、続いて信号機のある交差点の右折時(3件)、車線変更時(3件)であった。これ等の危険運転について、既存の路上運転評価表(Classenn et al., 2017)を参照し評価した結果、特に①速度調整、②刺激・信号への対応、③視覚的探索の項目で運転エラーが生じていた。 DRに付設しているソフトウエア(安全の達人Ⅱ) による運転得点を教習所指導員と比較検討したところ、ブレーキ操作とハンドル操作の項目で高次脳機能障害者の方が優位に得点が低下していた(p<.05)。これらのことより、高次脳機能障害者の運転行動特徴は、視覚探索能力の低下や刺激への反応の遅延により、急ブレーキや急ハンドルが生じやすく、全体として速度調整が安定しないという運転行動の特徴があることが示された。これ等の客観的データは高次脳機能障害者の運転評価と支援に重要な情報となりうる。 運転のエラーは交通環境とも相まって生じるため、高次脳機能障害者が起こしやすい運転エラー項目と、運転環境の両側面から実車運転評価指標を作成する必要がある。
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