本研究課題では、筋の選択的評価・トレーニングに有用な知見を提供することを主たる目的として、まず、関節運動時の筋ごとの筋張力の推定を行った。 近年、筋張力の指標として超音波剪断波エラストグラフィーにより計測される筋弾性率を用いられている。しかし、筋張力が同じであっても断面積が大きな筋ほど筋内一部分で計測される弾性率は低値を示すことが明らかとなってきたため、我々は、筋張力の指標として筋弾性率に筋の形態的指標(断面積や筋厚)を乗じた値を新たに用いて、非荷重位および荷重位での関節運動あるいは姿勢保持時の各股関節周囲筋の筋張力を推定し、筋の選択的評価・トレーニングに有用な知見を得た。 具体的には、背臥位での股関節屈曲運動(straight leg raise)において、各股関節周囲筋の弾性率を計測しそれに各筋の筋厚を乗じた値を筋張力値とし、筋間の相補的な関係性を分析した。その結果、運動時の腸骨筋の筋張力と長内転筋の筋張力とが負の相関関係を示した。これらの筋間に相補的な関係性がある可能性がある。 また、荷重位での運動として、片脚立位で姿勢を変化させた際の股関節屈筋群の筋張力を推定した。ここでも各筋の弾性率に筋厚を乗じた値を筋張力の指標とした。結果、骨盤や体幹を後傾させた姿勢で股関節屈筋群は筋張力が増加したが、股関節屈筋群の筋張力の総和に対する腸骨筋筋張力の比は、姿勢を変えても変化を認めなかった。健常者では、姿勢の変化すなわち股関節への外的負荷の変化に対して、関節周囲筋の筋張力バランスを一定に保つ制御がなされていることが示唆された。
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