研究課題/領域番号 |
16K12937
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
沖田 実 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学科), 教授 (50244091)
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研究分担者 |
中野 治郎 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学科), 准教授 (20380834)
坂本 淳哉 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学科), 准教授 (20584080)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 理学療法 / 筋線維症 / HIF-1α / 阻害薬実験 / 骨格筋電気刺激 |
研究実績の概要 |
今年度も筋線維症モデルラットに対するHIF-1α阻害薬実験を継続して行い,その効果を検討した.実験動物には8週齢のWistar系雄性ラットを用い,無処置の対照群と両側足関節を最大底屈位の状態で4週間ギプスで不動化することでヒラメ筋に筋線維症を発症させる実験群を設けた.そして,実験群はethanol・DMSOに溶解した3-(5'-hydroxymethyl-2'-furyl)-1-benzyl indazole(YC-1)を2mg/kgの用量で週6回,延べ4週間投与するYC-1群とその疑似処置を行うSham群に分け,すべての群とも毎週,足関節背屈可動域を測定し,筋線維症の発症によって惹起される関節拘縮を評価した.また,実験期間終了後はヒラメ筋を採取し,HIF-1α発現量とコラーゲン含有量を検索した.結果,YC-1群には不動3週目から関節拘縮の進行抑制効果を認め,あわせてHIF-1α発現量ならびにコラーゲン含有量の増加が抑制されていた.つまり,YC-1を投与し,HIF-1αの発現を抑制すれば筋線維症ならびに関節拘縮の進行が抑制されることが示唆された. 次に,今年度は筋線維症が進行した時期からの単収縮誘発性骨格筋電気刺激の効果についても検討した.実験動物には8週齢のWistar系雄性ラットを用い,上記と同様に対照群と実験群に分け,実験群は不動処置のみの不動群と不動3週目から単収縮誘発性骨格筋電気刺激による介入(周波数;10Hz,30分/日,6 回/週)を行う刺激群に分けた.結果,筋線維症が進行した時期から単収縮誘発性骨格筋電気刺激による介入を行っても,筋線維症ならびに関節拘縮の進行を抑制することは困難であることが明らかとなった. 以上の結果を踏まえ,次年度はHIF-1α阻害薬投与と単収縮誘発性骨格筋電気刺激によるコンビネーション治療の効果を検討する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度と今年度の研究結果から,骨格筋の不動によって惹起される筋線維症の標的分子はHIF-1αであることが明らかとなり,その発現を薬剤によって阻害することで筋線維症ならびに筋線維症の発症によって惹起される関節拘縮の進行が抑制されることが判明した.一方,単収縮誘発性骨格筋電気刺激はHIF-1αの発現を抑制し,筋線維症の進行を抑制する効果があることが自験例の先行研究によって明らかになっているが,その介入開始時期が遅れてしまうと,効果を認めないことが判明した.ただ,臨床では筋線維症や関節拘縮がある程度進行した時期から理学療法学的介入を開始せざるを得ないことも度々あり,その場合の効果的な介入戦略の開発が必要である.つまり,今年度の成果はその基礎資料を得る意味で意義のあるものであり,以上の点を総合的に判断した結果,現在までの研究の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
筋線維症の標的分子であるHIF-1αは,酸素感受性を有する転写因子であり,通常酸素下ではユビチキン化され,その活性は抑制されているが,低酸素状態ではユビチキン化が抑制され,HIF-1αが核内に移行し,間接的作用も含めると数千種類を超える遺伝子発現を調整するといわれている.中でも,コラーゲン合成に関与するtransforming growth factor (TGF)-β1やplatelet-derived growth factor(PDGF)といった線維症関連分子の活性はHIF-1αが直接的に作用していることから,その発現を抑制することが治療戦略の鍵になる.理学療法学的介入の一つである単収縮誘発性骨格筋電気刺激は筋ポンプ作用の促進によってHIF-1αの発現を抑制することが可能であるが,介入開始時期が遅れてしまうと効果はない.ただ,臨床においては筋線維症がある程度進行した時期から理学療法学的介入を開始せざるを得ないことも度々あり,この場合の効果的な介入戦略の開発が必要である.よって,次年度は不動開始時からHIF-1α阻害薬投与を行い,その過程で単収縮誘発性骨格筋電気刺激の介入を開始し,その効果を生物学的に検証する.また,研究総括を行い,国際学会や国際学術雑誌で報告する.
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