研究課題
骨格筋は可塑性に富んだ器官であり、運動(筋活動)量の増減に適応して構造的・機能的に変化する。損傷骨格筋の再生は筋活動量の影響を受けることが報告されているが、そのメカニズムには不明な点が多い。損傷骨格筋の再生には、骨格筋組織幹細胞である筋衛星細胞が重要であると考えられている。一方、乳酸は筋衛星細胞の調節因子を増加させることが報告されている。しかしながら、乳酸が損傷骨格筋の再生に及ぼす影響は未解明である。本研究では、乳酸が損傷骨格筋の再生過程に及ぼす影響を解明するために、実験動物ならびに培養骨格筋細胞を用いて、乳酸による損傷骨格筋の応答、乳酸の骨格筋形成への影響を検討する。本研究は2年計画で実施され、平成28年度はその1年目に当たる。本年度の検討項目は、乳酸による損傷骨格筋の応答とした。実験対象には培養骨格筋細胞および実験動物(マウス)を用いた。培養骨格筋細胞に乳酸ナトリウムを添加し、増殖像や分化像に及ぼす影響を確認した。分化培地への乳酸添加により、筋管細胞直径が有意に増加した。乳酸添加後にErk1/2リン酸化レベルの増加が認められた。さらに、実験動物を用いた損傷骨格筋モデルを作成し、乳酸による損傷骨格筋の応答を確認した。マウスの骨格筋組織にカルディオトキシンを注入して筋損傷および筋再生を惹起させた。筋損傷後にマウスに乳酸ナトリウムを経口投与し、乳酸投与後の骨格筋量およびPax7陽性筋衛星細胞数の変化を評価した。筋再生過程において乳酸投与群の筋重量は、対照群と比較して高値を示した。筋損傷による筋衛星細胞数の増加が認められ、乳酸投与は筋衛星細胞数の増加を促進させた。筋衛星細胞は損傷骨格筋の再生過程において中心的な役割を担うことから、乳酸は筋衛星細胞数を増加させることで、損傷骨格筋の再生を促すことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の検討項目は、乳酸による損傷骨格筋の応答である。これまでの検討により、マウス損傷骨格筋モデルを用いて、損傷骨格筋重量ならびに筋衛星細胞数への乳酸の影響を検討した。その結果、乳酸は筋損傷後の筋衛星細胞数の増加ならびに骨格筋量の増加を促すことを確認した。以上より、本研究課題はおおむね順調に進展している。
本研究は2年計画で実施され、平成29年度はその2年目に当たる。本実験を実施するに当たり必要な設備・備品は現有のものを使用し、本助成金は主として、培養骨格筋細胞ならびに細胞の培養に関わる物品の購入や分析に必要な試薬などの物品の購入に充てる。これまでの検討により、乳酸による損傷骨格筋の再生促進に筋衛星細胞の活性化が関与していることが示唆された。骨格筋再生時には筋衛星細胞由来の筋芽細胞が融合し、筋管細胞を経て新たな筋線維が形成される。そこで、本年度の検討項目は、乳酸が骨格筋形成に及ぼす影響とする。実験対象には、培養骨格筋細胞を用いる。乳酸が筋芽細胞の融合ならびに筋管細胞の形成に及ぼす影響を検討する。これまでに得られた結果を基にして、乳酸投与条件を設定し、培養骨格筋細胞に乳酸ナトリウムを添加する。免疫組織染色法により、乳酸投与後の骨格筋細胞像ならびに筋管細胞内核数の変化を確認し、乳酸の骨格筋形成への影響を評価する。また、ウェスタンブロット法およびリアルタイム-PCR法により、骨格筋形成に関わるシグナルの応答を解析する。さらに、乳酸の骨格筋形成への影響について、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
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