研究課題/領域番号 |
16K12944
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
落石 知世 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (30356729)
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研究分担者 |
角 正美 茨城県立医療大学, 保健医療学部, 嘱託助手 (30646261)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / アミロイドβタンパク質 / GFP / トランスジェニックマウス / オリゴマー / シナプス / 行動解析 / 習慣的運動 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(Alzheimer’s Disease: AD)はこれまで、患者の脳実質での老人斑の形成や神経細胞の脱落などが原因で起こると考えられていたが、近年、このような病理学的な所見の発現に先行して記憶障害が生じることが報告されている。これはシナプスに障害をきたしていることを示唆しており、AD発症の極初期に起こるシナプスの微細な変化を捉えることは、疾患の真の発症機序の解明に繋がると考えられる。また、最近の報告ではADにおけるシナプス機能の低下はアミロイドβタンパク質(Aβ)のオリゴマーによって引き起こされることが示唆されている。一方で、低下した認知機能は習慣的な運動等のリハビリテーションにより高齢健常者のみならずAD患者においても改善することが知られている。本研究は、Aβがオリゴマーを形成することが証明されているAβとGFPの融合タンパク質を神経細胞内に発現させた新規 ADモデルマウス(Aβ-GFPマウス)を用いて、Aβオリゴマーの動態を生きたシナプスで観察し、シナプス内部でのAβ-GFPの重合と毒性の関連を解明するとともに、習慣的な運動による認知機能の改善にAβ-GFPオリゴマーがどのように影響するのかを明らかにすることを目的としている。 これまでの研究により、Aβ-GFPマウスの認知機能は非常に若い時期から既に同腹の野生型マウスに比べて低下することが判明していることから、習慣的運動によってこのモデルマウスの認知機能がどのように変化するのか、またその変化に関連する可能性のあるシナプス部の変化を生化学的・形態学的に解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は前年度に引き続きAβ-GFPマウスの認知機能が運動によってどのように変化するのか解析し、実験をほぼ終了した。生後2~3ヶ月齢でAβ-GFPマウスの認知機能は既に低下していることが明らかとなっていることから、この月齢のマウスを用いて回転かごによる自発的運動負荷を7週間行い、体重変化・食餌量・運動距離を測定した。運動終了後直ちに物体再認テストを行い、空間認知機能や記憶力に変化が見られるかを同腹の野生型と比較した。その結果、Aβ-GFPマウスの認知機能に明確な改善が認められた。また、その変化に伴って変わるシナプス部のタンパク質の発現変化やスパインの形状について解析した。実際にはそれらのマウスの脳を用いてウエスタンブロット法により、シナプス前部及び後部の幾つかのタンパク質について発現変化を解析中である。またGolgi染色によりスパインの形態変化が認められるかを解析している。
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今後の研究の推進方策 |
回転かごによって自発的に運動負荷を行ったAβ-GFPマウスと、コントロールとして運動負荷を行わなかった個体、および同腹の野生型について海馬組織を採取してGFPによる免役沈降法、あるいはDNAマイクロアレイ解析を行い、まず、細胞内でAβオリゴマーが蓄積した動物ではどのようなタンパク質がAβオリゴマーと相互作用しているのか、またはどのようなタンパク質に発現変化が認められるのかを明らかにするとともに、それが運動によりどのように変化するのかを特にシナプス関連のタンパク質を中心に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験動物の飼育費と考えていた経費について、産業技術総合研究所の運営費交付金で全額をまかなうことができたためその分の余剰が生じた。次年度にタンパク質の質量分析、あるいはマイクロアレイ解析費のための外注分析費として使用する。また、論文の投稿及び掲載費として使用する。
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備考 |
招待講演: 落石知世 Development of new animal model of Alzheimer’s disease that express amyloid β protein. TISTR-AIST Mini Joint Symposium, 2018(Thailand)、1st RCB Bioimaging School mini symposium, 2018 (India)
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