研究課題
従来の歩行アシストロボットは、下肢(脚運動)に直接的に駆動力を加えるため、歩行の不自然さやトラブル時の転倒危険性の問題が指摘されてきた。そこで本研究では上肢運動(腕振り)リズムを介して間接的に下肢運動(歩行)リズムを安定化させることで、転倒の危険性の低い安全な歩行アシストロボットを世界で初めて開発する。つまり、上肢と下肢のリズム相互同調のなかで、上肢運動リズムの制御を介して歩行の全身体的な安定化を誘導するものである。具体的には、上肢(腕)運動と下肢(脚)運動がCPG神経系を介して相互に同調することに注目し、上肢運動リズムへの介入から下肢運動リズムに間接的に影響を与えることで、歩行運動の全身体的な動的安定化を実現できる歩行アシストロボットの開発をめざす。平成28年度は、初年度として上肢運動リズムの制御システムの開発(アクチュエータと制御器の開発)に取り組んだ。上肢の駆動システムを開発するために、まず上肢の肩関節の回転運動を駆動するアクチュエータを開発した。これは現状のプロトタイプモデルを発展させる形で、トルク生成のタイミング制御システムとして構築された。このとき上下肢の運動リズムの関係を明らかにするために、両運動リズムの同調プロセスも分析した。そして、この結果に基づいて、上肢と下肢の運動リズム同調を説明する数理モデルを構築した。特に上肢運動リズムへの介入によって下肢の歩行運動を安定化するためには、CPG神経系を介する上下肢の相互同調がグローバルなアトラクタを形成し、その構造安定性を生成する必要があるが、これをCPG同調モデルを拡張することで制御モデルとして実現した。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究目標は、上肢運動リズムの制御システムを開発することであり、そのために、1)上肢運動リズムの駆動アクチュエータの開発、および、2)上下肢の運動リズムのCPG同調モデルの構築に成功した。その結果、おおむね想定どおりの成果を達成することができた。
平成29年度は、本ロボットを歩行障害に適用し、その有効性評価(臨床における有効性評価試験)を実施する予定である。具体的には、1)パーキンソン病の歩行安定化への応用、および、2)脳卒中による片麻痺歩行リハビリへの応用に取り組む。
上肢運動リズムの駆動アクチュエータを構築する際、その試作回数が当初予定の半分のサイクル数で完了したため、試作に関わる材料費(モーターおよびドライバ回路)が軽減できた。これが次年度使用額が生じた主たる理由である。
上記の理由で軽減された経費によって、主としてパーキンソン病の加速歩行および脳卒中患者の片麻痺歩行への有効性試験の事例数を増加(変更前60例→変更後80例)させる計画である。これによって本システムの評価基盤を確立することになる。
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PLoS ONE
巻: vol.11, issue 6 ページ: pp.1-20