高齢化社会を迎え、増加している認知症者への対策のため、その原因解明や治療法開発が急務となっている。近年、頭部外からの交流電気刺激(経頭蓋交流電気刺激法)により脳の状態を調整できるとの報告があり、認知症など神経疾患者への応用が期待されている。一方で、電気刺激法によって脳の内部状態がどのように変化しているかについては十分に明らかになっていない。そのため電気刺激法の脳への刺激が果たして有効なのか、また安全なのかどうかは検討の必要性がある。そこで本研究では以下の二点にフォーカスして検討を行うことにした。1)交流電気刺激により脳にどのような変 化が起こるのか、2)交流電気刺激が認知機能の促通をもたらすのか、の2点を検討する事であ る。今回は、特に認知症において機能低下が想定される「自己認識システム」に焦点をあて、脳計測手法を用 いて交流電気刺激による脳神経基盤への影響を調べる事にした。 本検討ではまず1)に言及するため、経頭蓋交流電気刺激法を背外側前頭前野に対して印加し、その印加直下の部位を核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)を用いて検討を行った。MRSとは特定の脳内化学物質濃度を計測する手法であり、グルタミン酸やGABAといった物質の濃度を計測可能である。二重検定法を用いて、電気刺激条件とシャム条件に分けて電気刺激前後の化学物質濃度の変化を調べた。結果より、グルタミン酸やGABA等の化学物質濃度が大きく変動する事はなかった。ただし、グルタミン酸とグルタミンの混合シグナルがシャム条件において統計的有意に変化した。 検討の結果、経頭蓋交流電気刺激を一定の強さで印加した場合、脳内化学物質濃度の大きな変化はみられなかった。この事は、電気刺激の危険度は低い事を示唆する。これを踏まえ今後の展望としては、2)について電気刺激の認知能力への影響を検討を行う。
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