研究課題/領域番号 |
16K12963
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
早川 友恵 帝京大学, 文学部, 教授 (60238087)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 視野障害 / シミュレーション / 認知的不利益 / 求心性視野狭窄 / 中心暗点 |
研究実績の概要 |
視野障害のシミュレーションを行い、視野障害のタイプと認知遅延・情報誤認・情報見落としなと認知的損失の関係を明らかにした。さらに、視野障害に視力低下や色覚異常が重複する、よりリアルな視覚障害例を想定したシミュレーションを実施した。 平成28年度は、情報処理方略が異なることが予想される2つの視野障害のシミュレーションを実施した。シミュレーションには開発した視線同期型の制限視野移動システムを使用し、物体認知・視覚探索・シーンの理解の3課題で実験を行い、その認知特性を明らかにした。求心性視野狭窄は、残存視野の大きさに従って課題達成時間とその正答率が変化し、残存視野が大きいほど認知的問題が少ないことが分かった。一方、中心暗点では残存視野の大きさと課題達成時間・正答率に一定の関連性を認めなかった。その傾向はシーンの理解課題で最も顕著であり、暗点が小さくとも(残存視野が大きい)、認知的不利益が高く、周辺視野が効果的に使用できないことが分かった。シーンの理解は最も日常視に近い課題であり、中心暗点のQOLの低下を証明するうえで、極めて重要な知見が得られた。シーンの理解課題で、周辺視野が有効利用できない結果をうけて、周辺視野を効果的に使用するための訓練法を検討した。 その他、視野障害に視力障害が併存していると、色覚情報がその認知的不利益を補填し、一方、視力障害・色覚障害が併存する場合には、認知的不利益がさらに高くなることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視線に同期しての制限視野が移動するシミュレーターを使用し、求心性視野狭窄と中心暗点における認知的不利益について、日常生活の認知的不利益を表現できる3つの課題(物体認識、視覚探索、シーンの理解)を実施した。 求心性視野狭窄および中心暗点のシミュレーションを、健常人37名で実施した。また、中心暗点のシミュレーションで明らかにした、日常視に最も近いシーンの理解課題で周辺視野が有効利用できない点について、周辺視野への注意移動(注意スパンの拡大)学習を試みた。学習実験は健常人24名で行った。さらに、求心性視野狭窄に視力障害と色覚障害が併存している場合のシミュレーションを、健常人27名で実施した。 求心性視野狭窄と中心暗点は、認知的不利益の性質が異なることが分かった。求心性視野狭窄は残存視野の広さに比例して不利益が少なくなる。一方、中心暗点は残存視野の広さと不利益に矛盾を認めた。例えば、暗点が小さい(直径5度)場合のシーンの理解課題の課題達成時間は、大きい場合(直径40度)のそれと変わりなく、中心暗点では残存周辺視野が広くても、視覚認知度が向上しないことが分かった。周辺視野を効果的に使用するための視覚注意スパンの拡大学習を行ったところ、この現象は改善することが分かった(予備実験)。現在、この点について本実験を実施して確認中である。 視野障害に視力障害または色覚障害が併存している場合のシミュレーションおよび視野障害に視力障害と色覚障害が併存する場合のシミュレーションの結果については、実験精度を上げて確認中である。現在までのところ、視野障害に視力情報が併存する場合は色情報が形態認知を助け、視力障害と色覚障害がさらに併存する場合には、認知的不利益が高くなることが明らかになっている。
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今後の研究の推進方策 |
求心性視野狭窄と中心暗点のシミュレーション結果については、実験を終了して、学術論文の作成を準備中である。周辺視野を効果的に使用するための視覚注意スパンの拡大学習の結果については、本実験を実施して、学習効果を明らかにしていく予定である。予備実験の結果は、第28回日本ロービジョン学会(平成29年5月)で、発表する予定である。視野障害に視力障害または色覚障害が併存している場合のシミュレーションおよび視野障害に視力障害と色覚障害が併存する場合のシミュレーションの結果については、要因の複雑性を整理し、実験精度を上げて確認する予定であり、現在、実験を行っているところである。 現在、最も準備が遅れているのは視野障害の実例で同様の課題を行うことであり、症状が固定している障害者の実験参加ボランティアについて、ライトハウス等の視覚障害者総合福祉施設との間で、募集方法等の検討を始めているところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
残存視野、特に周辺視野の視覚認知を強化するための訓練装置の開発・制作を外部機関に依頼している。様式について慎重な議論のため、完成が遅れた。そのため、平成28年度にその支払いができず、「次年度使用額」が生じた。なお、本装置は平成29年度7月を目途に完成予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
残存視野、特に周辺視野の視覚認知を強化するための訓練装置の開発・制作は、平成29年度7月目途に完成し、納品予定である。「次年度使用額」は本機の支払いに使用する予定である。
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