日本の視覚障害者は164 万人に達し、社会的損失は毎年約9 兆円にのぼる。原因の多くは視野障害が必発する後天性疾患である。そのため、多くの障害者が社会活動から離脱するが、視野障害と認知的不利益の関係について合理的説明がなされていない。視覚障害者のActivity of Daily Livingを正しく理解し、また向上させるために、本研究を実施した。 背景刺激と制限視野が任意に設定できる視野障害シミュレーターを使用し、視野障害の代表的パターンについて認知的不利益の違いを明らかにした。求心性視野狭窄では視野の狭小化とともに成績が低下するが、中心暗点では暗点が小さく残存周辺視野が十分広くても、シーンの理解の成績は不良であった。視野障害による問題点は課題によって異なるため、日常視に近い課題が必要であることを示した。 中心暗点における認知的問題は、網膜に与えられた情報量と認知レベルの乖離を示しており、その背景に注意スパンの問題があると仮定し、周辺視野に注意を拡げる練習を5日間 実施した。その結果、練習群は課題達成時間・正答率ともに成績が向上した。特に5°と10°の暗点で顕著な効果を認めた。非練習群の成績に変化は見られなかった。その結果、残存周辺視野が有効利用できない中心暗点おける状況把握や効率的な物体検出などの認知的不利益は、視覚練習による改善が期待できることが分かった。 これらの研究成果は、病院等の視野検査結果と日常生活での困難度の乖離が見られる場合の理由の説明を容易にし、また網膜疾患治療後の残存視野の有効利用に新たな方略を与えることができたと考える。 障害者に対する合理的配慮と支援につなげる基礎研究として、研究成果の主な部分は、2016年日本眼科学会、2017年ロービジョン学会で報告し、関連研究については、2017年視覚学会、栃木県・北海道視能訓練士会合同研究会で報告した。
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